電子スピン共鳴(ESR)分光は物性物理や材料科学のみにとどまらず,化学や生物など幅広い分野に応用されている.しかしながら,スピンの偏極率の悪さ,増幅器を含めた測定ラインの雑音が非常に大きいこと,そして共振器との相互作用が小さいこと,の3つの主な原因により,ESRの室温における感度は非常に悪い.これがESR測定においてバルクの試料が必要な理由である. 本研究では,ハイブリッド量子系と超伝導量子回路の技術を駆使し,量子力学的な限界の感度を持ちながらも汎用的な電子スピン共鳴(ESR)分光器を実現する. 超伝導量子テクノロジーの1つである,量子力学的に最小の雑音を持つジョセフソンパラメトリック増幅器を汎用的な共振器と組み合わせることでこれを可能にする. 【研究成果】 前年度で設計・実装したマイクロ波共振器を用いてメーザー(microwave amplification by stimulated emission of radiation,誘導放出によるマイクロ波増幅)増幅器を実現し,その特性や原理などを詳細に調べた.その結果,メーザー増幅器は極めて高い飽和パワーを持ち,なおかつジョセフソンパラメトリック増幅器に匹敵する超低雑音増幅器を実現していることを確認した.
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