研究課題/領域番号 |
18H01818
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下志万 貴博 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (70581578)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超高速電子顕微鏡 / スキルミオン / ローレンツ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
スキルミオンは次世代磁気メモリデバイスへの応用が期待されているナノメートルサイズの磁気構造体である。これまでローレンツ電子顕微鏡法によりスキルミオンの存在が明らかにされてきた。しかしスキルミオンの生成過程、外場印加による並進運動、複数の個体間の相互作用など、磁気メモリデバイスとしての性能を決定する重要なダイナミクスの解明は進んでいない。その理由としてナノメートルサイズの磁気構造をナノ秒以上の時間分解能で可視化する手段が非常に限られていることが挙げられる。本研究ではフェムト秒レーザーのパルス性を付加することで高い時間分解能を獲得した超高速ローレンツ電子顕微鏡を用いてスキルミオンダイナミクスの観測を行う。 今年度は時間分解ローレンツ電子顕微鏡を用いてCoZnMn薄片における磁気スキルミオンの光励起ダイナミクスの可視化に成功した。特に、試料に意図的に格子欠陥を導入することによりスキルミオンの寿命をマイクロ秒程度まで短縮し、ストロボスコピック法により繰り返し可能なダイナミクスとしてとらえることに成功した。本研究では、スキルミオンの生成・輸送・再配列・消滅を含む一連のダイナミクスの時空間階層構造を初めて明らかにした。一般のソフトマターと異なり、電子スピン間に働くマルチスケールな磁気相互作用がスキルミオンダイナミクスにおける階層構造を生み出すことが示唆された。 一般にナノ構造体は熱揺らぎによるランダムな影響を受けるため、正確に繰り返す運動を誘起することは難しい。本結果は、導入した格子欠陥の影響により統計的に高い確率で生ずるダイナミクスを平均化し抽出した結果であると考えることができる。一方で、スキルミオンの電流駆動など繰り返しが困難な現象に対してはシングルショット法が有効である。今年度のストロボスコピック法による観測により、今後のシングルショット測定システムの構築に向けた指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、研究初年度に超高速ローレンツ電子顕微鏡法の確立およびストロボスコピック法を用いた可逆なスキルミオンダイナミクスの観測を計画していた。ここまではおおむね計画通りであったが、本実験において想定よりも多くのデータを取得することができたため、本年度においても計測を継続する必要が生じた。その結果、スキルミオンの生成、消滅、移動といった時間スケールの異なるダイナミクスを連続的な時間軸において追跡することに成功した。この観測により、スキルミオンが示すダイナミクスが異なる時間および空間スケールにわたって進行してゆく様子を明らかにすることができた。 また、本観測の予備データから得られた知見を踏まえて、本年度内にさらに発展的なシングルショット測定システムの構築を開始する予定であった。しかしコロナ禍の影響により調達が予定されていた高強度ナノ秒パルスレーザーの納品が年度内には困難な状況となり、シングルショット測定システムの構築に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、高強度ナノ秒パルスレーザーを用いたシングルショット測定系の構築および、電流通電下のスキルミオンダイナミクスを観測するための環境整備を行う。これにより、不可逆な過程を含むスキルミオンダイナミクスの観測を行う。室温においてスキルミオン相を示すCoZnMn薄片試料に対して微細加工を施し、ノッチ構造を有するナノストライプ試料を作製する。これにパルス電流を通電することでノッチ構造から生ずるスキルミオンの生成および搬送過程をとらえる。特に、パルス電流の時間幅やピーク電流値に依存したスキルミオンの並進速度、個体間の相互作用や不純物近傍の運動を系統的に調べ、輸送現象を律速する要因を明らかにする。
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