研究課題/領域番号 |
18H01819
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中島 峻 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (60534344)
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研究分担者 |
樽茶 清悟 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, グループディレクター (40302799)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子ビット / 電子スピン / 量子ドット / 量子コンピュータ / 誤り訂正 / 量子コヒーレンス |
研究実績の概要 |
近年、従来型コンピュータの高速化が限界を迎えつつある中で、新しいパラダイムにより超高速計算を可能にする量子計算機の実現が切望されている。最近、特に集積化に有利とされるシリコン(Si)基板の量子ドットデバイスで高性能な電子スピン量子ビットが実現され、量子計算機実現に向けた機運が高まってきた。しかしながら現実の量子ビットには必ずエラーが伴うため、このエラーを検出し訂正する回路の実現が必要である。本課題では、この量子エラー訂正回路を実装する上で必須とされるフィードフォワード制御技術の基盤を確立することを目標としている。
2020年度は、これまでにGaAs電子スピン量子ビットの実験から得られた、集団位相緩和の抑制による量子ビット制御忠実度の向上の結果を基にして、より高い忠実度が実現可能であるSi量子ビットに適用可能なフィードバック制御システムを開発した。 磁気雑音の抑制による位相コヒーレンスの改善に加えて、量子ビットのアクティブリセット(初期化)、読み出しセンサーの安定化、量子誤り訂正等の幅広い応用を見込むため、低雑音・高精度でかつ低遅延のフィードバック制御を実現した。 開発したフィードバック制御システムを用いて、まず読み出しセンサーの安定化制御を試みた。従来、電子スピン量子ビットの読み出しには単一電子の電荷を検出可能な量子ドットセンサーが用いられるが、ゲート電極間の電圧クロストークや試料中の電荷雑音にも敏感に反応してセンサー感度が失われてしまうため、その都度精密な調整が必要とされていた。本フィードバック制御システムの利用によりこの調整を自動化することで、応答時間2.2マイクロ秒でのセンサー安定化が可能であることを実証した。この高速応答性により、リアルタイムでの量子ドット電荷状態測定・制御やスピン量子ビットの単発測定が可能であることを実験によって確認し、成果を論文にまとめて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フィードバック制御システムの応用として、最初に当初計画にはなかったが大きな効果が期待できる実験として読み出しセンサーの安定化を着想し、実施した。この研究は極めて順調に進展し、実用上有用な効果が得られることを早期に確認できた。 一方でその分、当初計画していた量子ビットのアクティブリセット(初期化)の実験への着手がやや遅れることとなった。ただしこれについても既に実験データを蓄積し、その解析および成果取りまとめを進めている。 したがって、全体としては概ね計画以上に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず量子ビットのアクティブリセット操作によって得られた量子ビット初期化のデータ解析を進め、従来の熱的な緩和による量子ビットの初期化と比較して、忠実度や速度の点における優位性を検証する。その結果を基にフィードバック制御システムの動作、特にベイズ推定の精度等が期待通りの性能を示すことを確認する。 その後、Si電子スピン量子ビットの雑音抑制により、量子ビット制御の高忠実度化の実証実験を進める。
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