研究実績の概要 |
① 熱電変換機能の開拓 超高真空(UHV)装置を利用して, 試料上の任意のマイクロスケール領域へ温度差ΔTを与え,これをK型シース熱電対プローブで計測する。高温・低温プローブ間に発生した熱起電力ΔVを計測し, ゼーベック係数を評価する。今年度は、C60薄膜にカリウム(K)をドープし, バルクでの伝導性を上げることでゼーベック係数がモットの公式に従ってトレードオフの関係になるかを調べた結果、伝導度が3桁向上したが、ゼーベック係数は3桁減少し、モットの公式に従うことを確認した。しかしながら、カリウムドープの代わりに、C60薄膜にUV-Vis光を照射し、ダンベル型の重合反応を誘起したところ、伝導度が一桁以上向上したのに対して、ゼーベック係数は半分程度の減少に留まり、モットの公式に従わないことを見出した。これは、重合反応により部分的にダイマーまたはオリゴマーを生成させることで、バルクには低次元性の効果が反映していることが示唆される興味深い結果が得られた。
② 特異反応場機能の開拓 今年度は新たにIn situ超高真空FT-IR計測システムの立ち上げ、反応性ガス導入機構の立ち上げ、および高感度で200 m/zまでの質量分析ができる計測装置を取り付け,正常に動作することを確認した。 ポリマー薄膜内に取り込まれた二酸化炭素(CO2)と水分子(H2O)とが室温下で反応し, 炭酸イオンとプロトン(またはヒドロニウムイオン)として固定化する生成メカニズムを第一原理計算した結果、1次元凹凸曲面に分極した正と負の電荷により、ポリマー鎖間に形成されたナノ空間場にCO2が橋掛け状態で固定化され、変角振動により活性化されたLUMOと水分子の酸素原子との間で活性化エネルギーがほぼゼロに近い形で反応することが分かってきた。
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今後の研究の推進方策 |
① 熱電変換機能の開拓 前年度は、UHV装置で雲母基板上にC60薄膜を作製した後, カリウムをドープし、バルクの伝導性をあげることでモットの式に従い、伝導性とゼーベック係数がトレードオフの関係になっていることを実験的に確かめた。さらに、光重合により、モットの公式に従わず、ゼーベック係数の減少を抑えつつ電気伝導を向上させることに成功した。今年度は、C60薄膜に電子線照射により1D凹凸C60ポリマー薄膜を形成し, ゼーベック係数をin situ測定し、1993年に理論的な予測(低次元効果)による比較的な向上があるかどうか確認する。 ② 特異反応場機能の開拓 前年度は、1D凹凸C60ポリマー薄膜を大気暴露させたところ, 薄膜内に取り込まれた二酸化炭素(CO2)と水分子(H2O)とが室温下で反応し,炭酸イオンとプロトン(またはヒドロニウムイオン)として固定化する機構として、CO2分子がナノ空間のポリマー鎖間に架橋され、CO2分子の変角振動によりH2O分子との反応が室温で起こることを理論的に明らかにした。今年度は、前年度In situ超高真空FT-IR装置に取り付けた反応性ガス導入機構および質量分析計測器を用いて、 固定化したCO2を有用物質(R-OH, R-COOHなど)に変換するために, 新たに反応性ガス(たとえば、メタンやエタン)を導入し, 炭酸イオンから有用物質への変換を試みる。
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