研究課題/領域番号 |
18H01827
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂本 雅典 京都大学, 化学研究所, 准教授 (60419463)
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研究分担者 |
田中 晃二 京都大学, 高等研究院, 特任教授 (00029274)
小林 克彰 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (30433874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒 |
研究実績の概要 |
カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指した再生可能エネルギー開発の観点から、クリーンで持続可能な太陽光エネルギー利用の研究にかつてないほどの注目が集まっている。この一方で、人類はいまだに太陽光を利用しつくしているとは言い難い。太陽光のエネルギーのうちおよそ半分は赤外域の光であるが、現在まで赤外域の太陽光をエネルギーとして有効に活用する技術は開発されておらず、未だに未利用のエネルギー資源となっている。赤外域の太陽光の有効利用が実現すれば、光合成や人工光合成、太陽光発電などに匹敵する新たな太陽光エネルギー生産方法となりえる。また、赤外光からのエネルギー生産プロセスは、可視域の光を利用する自然の光合成と競合しないため、真の意味で自然と共存したエネルギー変換を実現することができる。 現在までに多彩なアプローチによる赤外光のエネルギー資源化が試みられてきたが、安定性や効率に難があり、エネルギーの高い近赤外の光を用いた場合を除いては、効率的な化学エネルギー変換を実現した例はない。ナノ材料において光によるキャリアの集団振動により誘起される局在表面プラズモン共鳴(LSPR: Localized Surface Plasmon Resonance)は、LSPRが可視から赤外まで幅広い領域に強い吸収を示し、またその吸収が素材や形状で制御可能であることから、赤外光のエネルギー変換を実現するための赤外光補集材を開発する上で有力な現象である。 著者らの研究チームは、ヘビードープ半導体のLSPR材料群を用いる事で、既存の金属ナノ材料/半導体界面を用いた系では困難であった長寿命電荷分離を実現するプラズモン誘起電荷移動系を開発することが可能である事を発見した。さらには、その原理を光触媒反応に応用することで、現時点での世界最高効率の赤外光応答光触媒を開発することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者は金属性と半導体性を兼ね備えた半金属(semimetal)のLSPR材料においては、貴金属のLSPR材料とは異なり、半導体工学とプラズモニクス双方のアプローチによるキャリアダイナミクスの制御が可能であることを発見した。例えば、半金属のLSPR材料は半導体との間に光触媒反応に有利なp-n接合界面を形成することが可能である。研究代表者の開発した世界初のプラズモニックp-n接合界面を有する光触媒は既存の材料を凌駕する世界最高の効率を示しただけではなく、地表に到達する赤外域の太陽光の全てを化学エネルギーに変換することに成功した[波長1100 nmでの外部量子効率4%を記録、J. Am. Chem. Soc. 2446, 141, 2019.]。この機構は酸化、還元双方に適用可能であることが解明されており、一週間以上効率の落ちない赤外光による酸化・還元サイクル(redox cycle)の開発に成功している他、赤外光による水の完全分解反応も視野に入りつつある。これらの研究成果は、本申請に先立つプロジェクトを通じて確立した独自性の高いものであり、赤外光の化学エネルギー変換の実現へのブレイクスルーとなる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究成果により、世界最高効率での赤外光による光触媒水素生成反応、赤外光により駆動する錯体触媒の開発など、本プロジェクトでは当初研究計画を大幅に上回る成果が得られた。研究により得られた成果は光触媒だけではなく太陽電池、熱線遮蔽材などの開発への応用も期待できることが明らかになりつつあり、社会および産業界からの期待も大きい。 今後は、赤外域の太陽光を再現した光源、および赤外域に吸収を持たない素材を用いた反応システムを新たに開発し、新規赤外光応答光触媒および赤外光化学反応の開発を進める予定である。
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