研究課題/領域番号 |
18H01830
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松村 晶 九州大学, 工学研究院, 教授 (60150520)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高分解能電子顕微鏡 / ナノ粒子 / 原子変位 |
研究実績の概要 |
棒状の金属ナノロッドはその形状異方性により局在プラズモン励起に伴う特徴的な光学特性を有しており、様々な光学機能素子としての応用が期待されている。本研究では、様々な光学機能素子としての応用が期待されている金ナノロッドの原子構造の形状依存性ならびにパルスレーザー光の照射によって励起される変形を伴う原子再配列挙動を最先端の走査透過電子顕微鏡(STEM)法を駆使して明らかにすることを目的としている。研究に用いた試料は、アスペクト比(=ロッドの長さ/ロッドの直径)が2.3~10.0の金ナノロッドであり、これらは単結晶で形状の長軸は [001]方向にある。遠心分離操作によって凝集を防ぐための界面活性剤を除去した後に、Arガスプラズマ中で予め親水化処理を施した電顕観察用支持膜上に金ナノロッドを分散した水溶液を滴下して、電子顕微鏡観察用試料とした。
現有の収差補正高分解能電子顕微鏡(JEM-ARM200F ACCELARM)により、加速電圧を120 kVとして金ナノロッドの[100]あるいは[110]方向からHAADF-STEM原子分解能像観察を行った。得られたHAADF像中の各原子カラムの像強度に対して、隣接ピークの裾の重なりを考慮した上で二次元ガウス関数をフィッティングすることにより画像のピクセルサイズ未満のサブピクセル精度でもって原子コラム位置を決定して、金ナノロッドの平均格子定数、局所原子変位を求めた。
上記の実験解析を行った金ナノロッドと同形のモデル系について、経験的原子間ポテンシャルを用いた分子動力学(MD)計算を行い、構造緩和後の平衡状態での原子位置を求めた。得られた構造について実験投影方向の原子コラム平均位置を求めて上記の実験結果と比較を行ったところ、平均格子定数、局所原子変位ともに良い対応が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、本年度は金ナノロッドの高分解能電子顕微鏡(HAADF-STEM原子分解能像)観察による原子変位の解析を中心に進めて、十全の成果を得るに至った。観察においては、加速電圧は120 kVとして、表面スパタリング等による観察中の状態変化を抑えるとともに、電子プローブの早い走査による短時間で得る同一視野の複数のHAADF像を重ねることで試料ドリフトの影響を抑えることで、ピコメートルオーダーの位置決定精度を得ることができた。これは原子間距離の1 %程度に相当するものであり、世界的にも最高水準の精度に達している。
一方、実験で求めた原子の局所変位の原因を明らかにするために、実験解析を行った金ナノロッドと同形のモデル系について、経験的原子間ポテンシャルを用いたMD計算も行なって、その良い対応も得るに至った。今後、ロッド径やアスペクト比、先端部の曲率、結晶表面の晶癖性などを変数として同様の実験解析とMD計算を行い、局所原子変位の支配因子が解明されることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
順調に計画通りに研究は進んでおり、計画の変更や遂行上の問題点は見当たらない。引き続き、様々な形態の金ナノロッドについて同様の解析を進めることで、金属ナノ粒子の局所原子変位を決定している支配因子を明らかにする。その成果は、様々な金属ナノ粒子の形態と表面や内部構造や原子変位との一般的な関係を導くものであり、基礎物性として重要な知見となることが期待される。
さらに、近赤外パルスレーザー光照射前後でのナノロッドの原子構造変化についても、原子分解能HAADF-STEM法で解析することにより、照射励起によって引き起こされる原子挙動を解明する。ここでは、通常の原子分解能HAADF-STEM像解析とともに、電子線トモグラフィー法による3次元形態の解析を同時に進めることによって、立体的な原子構造変化過程を追求する。
ナノ粒子の原子構造と形態の関係についての理解は、金ナノロッドに限らず広く金属ナノ粒子に共通するものであり、金属ナノ粒子全般の物性とその応用に関する研究に波及してその発展への貢献が期待できる。
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