2020年度は、前年度に続き有機金属原料を用いた化学気相成長(MOCVD)装置を利用した遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)からなる原子細線の合成の条件検討と、走査透過型電子顕微鏡観察・走査プローブ顕微鏡・顕微分光による構造・物性評価を中心に進めてきた。合成に関しては、MOCVDにおけ結晶の収率やサイズの向上、そして長尺な原子細線の合成に関する研究に注力してきた。特に、結晶成長の条件については、高結晶性TMDC結晶基板の利用や、補助剤となるアルカリ金属化合物の有無や種類・濃度依存性について詳細に調べてきた。主要な成果として、(i)適切な成長基板ではアルカリ金属フリー条件でもマイクロメートルサイズの結晶成長がMOCVDで可能なこと、(ii)アルカリ金属を基板上に高濃度に供給することで結晶サイズを向上できること、(iii)テンプレートの結晶に依存して原子細線の結晶性を向上できること、などTMDCのMOCVD成長に関する多くの基礎的知見を得ることができた。これらの成果より、一次元エピタキシャル成長を用いて様々な幅や組成のTMDC原子細線を安定に作製できるようになってきた。物性評価に関しては、ケルビンプローブフォース顕微鏡を利用し、TMDC接合界面の表面電位の変調や結晶性の簡便な評価が可能な点、および顕微分光により面内で接合されたTMDC間の励起子エネルギー移動などについての新たな知見を得ることができた。今後、成長技術のさらなる高度化を進めるとともに、新たな一次元物質群の構築と機能開拓の研究を展開していく。
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