研究課題/領域番号 |
18H01833
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
小松 晃之 中央大学, 理工学部, 教授 (30298187)
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研究分担者 |
森田 能次 中央大学, 理工学部, 助教 (40795308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロチューブ / 交互積層 / ウレアーゼ / カタラーゼ / アビジンービオチン / 自己攪拌能 |
研究実績の概要 |
有機系ナノ・マイクロチューブの合成と応用に注目が集まっている。研究代表者は多孔性ポリカーボネート膜を用いた独自の鋳型内交互積層法により、中空シリンダー構造の蛋白質ナノ・マイクロチューブの一群を合成し、その内孔空間を利用した様々な機能発現に成功してきた。本研究は、これまでに蓄積した知見を大きく発展させ、「酵素反応のバブル噴射で自走する生体適合性の高い蛋白質マイクロチューブ」の合成に挑戦する。さらに、従来 未着手であった外表面に物質捕捉能を付与する方法も確立し、「動きながらウイルスや菌を捕集できる革新的マイクロシリンダー」として完成する。 ①ウレアーゼ(UA)を最内層に有するマイクロチューブの合成と自走現象の動的解析 2018年度に確立したチューブ調製法により、最内層にUAを有するマイクロチューブを合成した。得られたマイクロチューブの水分散液に尿素(100mM)を添加すると、一次元内孔空間内のNH3、CO2濃度が上昇し、チューブは自走した。自走速度はカタラーゼマイクロチューブより遅いが、酸素バブル以外でも自走させることに成功した。 ②アビジン(Avi)を外表面に有するマイクロチューブの合成とビオチン化物質捕集能の解析 本研究の目的の一つは、自走するマイクロチューブの外表面に物質捕集能を持たせることである。そこで、外表面をAviで修飾したマイクロチューブを調製し、それが様々なビオチン化物質を捕捉できるかどうかを解析した。ビオチン化フルオレセイン、ビオチン化ナノ・マイクロ粒子(15nm~4μm)が自走するチューブの外表面に結合することを蛍光スペクトル測定、顕微鏡観察から実証した。さらに、ビオチン化グルコシダーゼをマイクロチューブの表面に吸着させ、それが自己攪拌能を有する触媒として機能することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に従い実験を順調に遂行し、2019年度の目標であった「ウレアーゼ(UA)を最内層に有するマイクロチューブの合成と自走現象の動的解析」、「アビジン(Avi)を外表面に有するマイクロチューブの合成とビオチン化物質捕集能の解析」の2項目を達成することができた。さらに、当初予想していなかった成果も得られている。蛋白質マイクロチューブの外表面に固定したAviはビオチン化合物と非常に強く結合するため、他の化合物が共存する条件下でも、ビオチン化合物のみを選択的に捕集することがわかった。ビオチン化フルオレセインを表面に捕捉したマイクロチューブが自走する様子を高速観察システムで観測した。本成果をまとめた論文は、ACS Appl.Nano Mater. に掲載され、イメージ図が表紙として紹介された。また、UAを最内層に有するマイクロチューブモーターが進行方向に対して回転しながら自走する様子を観測した。この成果をまとめた論文は、Chem. Asian J. 誌に掲載され、Very Important Paper(VIP)に選ばれた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は「光照射による自走速度の制御」および最終目標である「菌やウイルスの捕捉」に挑戦する。 1)金ナノ粒子によるチューブ外表面の修飾と光を用いた自走速度の制御:カタラーゼマイクロチューブの外表面に金ナノ粒子(粒径約40nm)を吸着させ、可視光をあてると、金ナノ粒子の光熱効果により管壁温度が上昇する。チューブ内孔表面にあるカタラーゼは、至適温度で酵素活性が最大となることから(2018年度成果)、光照射によりチューブの自走速度が制御できると考えられる。 2)コンカナバリンAによるチューブ外表面の修飾と大腸菌捕集能の解析:カタラーゼマイクロチューブの外表面にレクチン(糖結合蛋白質)であるコンカナバリンAを吸着させ、蛍光標識した大腸菌を入れると、チューブは自走しながら大腸菌を捕集する。チューブ除去後の上清の蛍光スペクトル測定から、大腸菌捕集率を明らかにする。 3)フェチュインによるチューブ外表面の修飾とヘマグルチニン(インフルエンザウイルスのスパイク蛋白質)捕集能の解析:カタラーゼマイクロチューブの外表面に糖蛋白質であるフェチュインを吸着させ、ヘマグルチニンを入れると、ヘマグルチニンがフェチュインのシアル酸を認識するので、チューブは自走しながらヘマグルチニンを捕集する。チューブ除去後の上清のELISA測定から、ヘマグルチニン捕集率を明らかにする。 3年間で得られた成果を総合し、酵素反応のバブル噴射で自走するタンパク質マイクロチューブモーターの合成と機能についてまとめる。
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