研究課題/領域番号 |
18H01837
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
内橋 貴之 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微小管 / キネシン / 一分子計測 / 高速AFM |
研究実績の概要 |
I. インラインフォースカーブモードの開発:高速AFMでタンパク質の動態を可視化しながら、任意の位置で試料の力学操作と機械特性計測が可能なインラインフォースカーブモードを開発した。具体的には、イメージング中にPCに表示された画像で決めた位置で画像取得を停止し、プローブ-試料間距離を変化させてフォースカーブを取得し、引き続きイメージングを行い局所外力印加後の分子の動態を観察できるシステムを構築した。これにより微小管への局所外力の印加とそれによる構造変化やナノ力学特性の定量的解析が可能になった。 II. 微小管への欠陥生成と機械特性評価:インラインフォースカーブモードを使って、微小管からチューブリンダイマーを引き抜き、同時にフォースカーブを計測することに成功した。さらに、欠陥のサイズを変えながらフォースカーブを取得し、チューブリン間の結合力を定量化した。これにより、これまで理論的にしか研究されていなかった微小管の機械特性を解析することができた。 III. 微小管の自己修復過程の可視化:微小管にチューブリンダイマーの欠陥を形成後、その欠陥が再びチューブリンの再結合による修復される、自己修復と呼ばれる現象を捉えることに成功した。この測定により、微小管の自己修復過程は微小管の中空内で拡散しているチューブリンの結合で生じることを明らかにした。 IV. 欠陥周囲のキネシンの運動解析:微小管の構造欠陥周辺でのキネシンの運動観察を行った。微小管に沿って進んできたキネシンが欠陥直前で微小管から解離したり、プロトフィラメントを乗り換えて、欠陥を迂回して進んでいく様子が見られた。さらに再現性の高い実験を可能にするため、多数の微小管を平行に並べてストライプ状に配列させる基板条件の検討を行った。その結果、適切なバッファ条件と基板に脂質二重膜を用いることで微小管をストライプ状に整列させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、高速AFMのインタラクティブモードの高精度化を行い、微小管に印加する力を制御しながら欠陥生成をすることが出来るシステムを構築した。また、高速AFMの画像取得中に任意の多点で外力印加が可能なマルチインタラクティブモード化も達成した。さらに、このシステムを応用し、微小管を形成するチューブリンダイマー間の結合エネルギーの定量化にも成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に完成したインラインフォースカーブモードにより微小管に制御性良く欠陥を精製し、その欠陥周囲のでキネシンの運動解析を進める。具体的に以下の方法で実験を進める。 1. 微小管の局所ヌクレオチド状態の制御とキネシンの運動活性解析:微小管に生じた構造欠陥は周囲にあるフリーなチューブリンの結合により自己修復される。チューブリンはGTPの結合により重合するが、微小管中のチューブリンはGTP型とGDP型が混在した一種の状態欠陥を形成しており、それがキネシンの運動活性を変えるとの報告がある。微小管の自己修復機能を利用して、生成した欠陥にGDPあるいはGTP(GMPPCC)結合型のフリーなチューブリンで修復することで、微小管の局所的ヌクレオチド状態を制御する。アセチル化状態が異なるチューブリンでも同様の実験を行う。
2. 微小管の局所欠陥によるキネシン-2の運動変調:モータータンパク質であるキネシン-2は微小管に欠陥があると速度の低下や微小管からの解離が起こることが報告されている。しかし、その際の欠陥とタンパク質の位置関係や速度低下の分子機構は明らかでない。前年度にチューブリンダイマー欠陥の数と位置を制御し、欠陥に遭遇したときのキネシンのふるまい、1) 欠陥からの距離と運動速度、2) プロトフィフィラメントの乗り換え運動、3) 欠陥のサイズに依存した運動速度低下と解離、4) 欠陥近傍でのキネシンの構造変化を解析し、構造・物性欠陥によるキネシンの運動変調の分子機構を明らかにする。
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