研究課題/領域番号 |
18H01838
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
原田 慶恵 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (10202269)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物物理 |
研究実績の概要 |
ダイヤモンド内の窒素-格子空隙中心(NVC)の電子スピンの量子状態は、磁場によって変化する。この変化は、NVCが発する蛍光強度の変化として、光検出磁気共鳴(ODMR)分光法により測定することが可能である。このNVCを用いた局所磁場測定法を超高感度化することで、生体分子1個の核磁気共鳴 (Nuclear Magnetic Resonance, NMR)に挑戦する。本年度は測定手法の要素技術開発として、ダイヤモンド内のNVC配置の設計を行った。ダイヤモンド基板はNV軸の方位を揃え感度を最大化するために(111)面を使用する。これまでに表面に形成した厚さ3.5μmのCVD膜に面直方向に配向した高密度(1.6×10^16cm^-3)のNVセンタが形成されているダイヤモンド基板が作製された。磁気ビーズを用いた計測により、どの程度の磁場が計測可能であるのかを見積もった。現状では1µm径磁性粒子検出に19s、500nm径磁性粒子検出に32sを要している。ダイヤモンド基板表面に近接した磁性粒子を検出するのにベストなNV層の厚さは磁性粒子径程度である。広範囲での高感度計測を行う場合には、NV数の絶対数が必要である。このために電子線照射により基板深度全体に高密度のNVセンタを作り込んだダイヤモンド基板を試作した。2mm×2mm×0.5mmのダイヤモンド基板に10^17cm^-2の電子線照射を行った。同基板により実験室中の環境磁場の計測を行った。日曜早朝の静寂な状態では環境磁場のレベルが最小となり、残りの磁場信号は2.3nT/√Hzとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NVCのODMRを用いて常温低磁場で核スピンを検出するには、現状20,000個の原子核からの信号が必要である。本研究では、まず既存の技術を極め2,000個の原子核を検出する方法を確立する。本年度はダイヤモンド基板の改良を行った。ダイヤモンド基板はNV軸の方位を揃え感度を最大化するために(111)面を使用する。これまでに表面に形成した厚さ3.5μmのCVD膜に面直方向に配向した高密度(1.6×10^16cm^-3)のNVセンタが形成されているダイヤモンド基板、2mm×2mm×0.5mmのダイヤモンド基板に10^17cm^-2の電子線照射を照射することで、より基板深度全体に高密度のNVセンタを作り込んだダイヤモンド基板を試作した。同基板により実験室中の環境磁場の計測を行った。日曜早朝の静寂な状態では環境磁場のレベルが最小となり、残りの磁場信号は2.3nT/√Hzとなった。10 nm立方に2,000個の^31P原子が含まれるDNAナノ構造の計測を想定した場合2,000個の^31Pが距離10 nmに生成する核磁化信号強度は約30 nTであるため核スピンを検出が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、NVCのODMRを用いて常温低磁場で核スピンを検出するには、20,000個の原子核からの信号が必要である。本研究では、まず既存の技術を極め2,000個の原子核を検出する方法を確立する。そのために、どのような実験条件が高感度化の鍵であるかを明らかにする。核スピンは、検出可能距離が10 nm程度と短いため、多数の原子をNVCから半径10 nmという狭い領域に閉じ込める必要がある。そこで、原子数を自在に操作しやすく、化学修飾も容易なDNAやDNAおりがみ技術で作製したDNAナノ構造(10 nm立方に1,000塩基対をパッキング可能)を観察対象に用いる。DNAには多数のリン原子(100%が核スピン1/2の31P同位体)が含まれるが、通常のタンパク質には31Pが含まれないことを利用し、ダイヤモンド基板に固定したタンパク質にDNAが相互作用する様子を可視化する。NVCの磁気感度は最新のダイナミックデカップリング技術を適用すれば検出帯域が従来法より2桁狭まることが確認されており、この程度の濃度であれば、0.1 μT/√Hzが期待できる。一方、2,000個の31Pが距離10 nmに生成する核磁化信号強度は約0.03 μTであるため、NVCの直上にDNAナノ構造が配置された場合でもその検出には10 秒の積算が必要である。ODMR計測には十分に強い励起光をダイヤモンド基板に照射しつつ、長時間の積算中にDNAの活性を維持するためには、励起光をダイヤモンド基板内に閉じ込め、DNA自体の露光は最小となるよう、全反射照明での光励起を行う。
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