研究課題/領域番号 |
18H01839
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
廣島 通夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (20392087)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 1分子イメージング・ナノ計測 / 1分子生体情報学 |
研究実績の概要 |
EGFR(上皮成長因子受容体)などの細胞膜受容体は、活性化すると、その動態に顕著な変化が生ずることが1分子イメージングによって見出された[1,2]。この知見が、薬剤や細胞のスクリーニングに応用できることが示されており[3]、画期的な創薬/研究手法に発展する可能性がある。しかし、分子動態が変化するメカニズムは分かっておらず、汎用的な手法として確立するための支障となっている。本研究では、このメカニズムを分子構造や細胞膜環境と関連付けて解明し、細胞内1分子スクリーニングの基盤となる手法の実効性を裏付ける。 そこで、活性化により構造変化して動態に影響を及ぼすと考えられる、1) 細胞外ドメイン、2) 二量体形成アーム、3) C末リン酸化領域、4) 細胞質側ドメイン、5) 細胞膜近傍領域 の各部位について、欠損あるいは点変異を導入したGFPとの融合タンパク質を作成する。2018年度は、2), 4)を欠損させた変異体を構築し細胞への導入を行った。当初は一過性発現株での1分子計測を想定していたが、計画を越えて細胞株の作成まで終了させることができ、今後の計測において効率化を図ることが可能となった。また、野生型と変異体4)については、自動1分子計測システムを用いて、リガンドや阻害剤それぞれの濃度に依存して変化する分子動態のデータが得られ始めている。 また、野生型において、分子動態と活性化(リン酸化)が全く同一のリガンド濃度依存性を示すこと、細胞膜のコレステロール量を減少させた場合、受容体の動態が二量体や多量体の形成に影響を与えることが示された。分子の活性化と動態を結ぶメカニズムにおいて、細胞膜環境がどう関与しているか、その理解につながる知見である。 一方、顕微鏡システムについては、当初の計画通り、ENCCDカメラの導入により、蛍光二波長での観察を可能とする二光路系を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、細胞膜受容体分子の活性化と動態を結ぶメカニズムを解明するため、EGFRの活性化に伴って変化する分子動態について 1) 分子構造、2) 細胞膜環境 の寄与に着眼して解析する。1) については、活性化と関連する部位を変化させた5種類の変異体それぞれを細胞で発現させ1分子計測を行う。実験の効率を考えると安定発現株を用いた計測が望ましいが、通常は株の作成に時間を要する。そこで計画では、一過性発現細胞を用いて、効率は悪いものの研究全体を迅速に進めることを予定していた。ただ、万が一のことを想定して細胞株の作成を並行して進めていたところ、2種類の変異体について安定発現株が早期に得られ、計画以上に進展させることができた。 2) については、分子動態を制限する細胞膜サブドメインの構成要素であるコレステロールを減少させると、動態は自由拡散へと変化し、EGFRの活性化を担う二量体形成が促進していた。また、ウェスタンブロッティングにより、受容体のリン酸化が実際に増加していることが示された。これらの結果から、細胞膜環境と受容体の分子動態、および活性化の三者間の対応関係が明らかになってきた。一方、興味深いことに、多量体の形成は逆に減少し、下流シグナルのリン酸化も大きく減っていた。これは、EGFRの多量体が細胞シグナリングのハブの役割を果たし、コレステロールがその形成に重要であることを示している。この結果を応用すれば、細胞膜環境を操作して受容体の動態を変え、細胞応答を変化させることができるかもしれない。 成果(論文)発表に関しては、本研究内容と密接に関連し、申請段階では投稿中としていた、研究代表が筆頭著者である論文2報(1報はequal contribution)と、第二著者である論文1報の計3報が、この1年で出版された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き、EGFRを構成する各ドメインを欠損させた変異体を作成し、活性化に伴う動態変化に影響する部位の同定を目指す。GFPとの融合タンパク質として、既に得られた2種類に加え、1) 細胞外全ドメイン、2) C末リン酸化領域、3) 細胞膜近傍領域 の変異体を構築、安定発現株を取得していく。得られた細胞株について1分子解析を行い、各変異が及ぼす動態変化を定量的に比較する。また、ウェスタンブロッティングを用いたリン酸化定量により、EGFRの活性化と、分子構造および動態との相関を調べる。 また、コレステロール量の操作などによってEGFRの動態が影響を受けている時、細胞膜ドメインに生じている変化を明らかにするため、超解像顕微鏡法を用いてEGFR分子の細胞膜上での分布を解析する。得られた結果から細胞膜環境の変化と、分子動態および活性化との相関を調べる。 さらに、EGFと細胞膜脂質を異なる蛍光色素でラベルし、両者の間で生じるFRETを輝点毎に計測することで、EGFRの細胞外ドメインと細胞膜の間の距離変化を追跡し、構造のダイナミクスや、変異により生じた変化が分子動態に与える影響を解析する。2018年度に計測系の構築は終了しているが、19年度は試料の蛍光ラベルなど、当研究室ではまだ確立されていない実験系の構築を行う。
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