細胞膜受容体はサイトカインなどの刺激で活性化すると、分子動態が濃度依存的に変化することが1分子イメージングによって見出されている。薬剤の効果を定量できるこの性質を用いれば、全く新しい薬剤スクリーニング手法の創出に繋げられる。しかし、分子動態が変化するメカニズムは詳細に分かっていなかった。本研究では、細胞内1分子スクリーニングの基盤としての実効性を示すため、このメカニズムの解明を行った。 肺癌などの疾病に関わる上皮成長因子受容体(EGFR)において、活性化により構造変化し動態に影響を及ぼすと考えられる1) 二量体形成アーム、2) 細胞質ドメインを欠損させた構造変異体と、薬剤スクリーニングを見据えて計画を変更し追加した癌変異体、3) L858R、4) L858R/D761Y のそれぞれについて、GFPとの融合タンパク質を構築した。これら全ての細胞株を作成し、1分子イメージングにより得られた結果から、分子動態に反映される分子構造や薬剤の効果を明らかにした。また4)では、3)を標的とした抗癌剤に対して示す薬剤耐性を反映し動態変化が消失すること、さらに、4)を標的とした後発の抗癌剤に対して変化が再び現れることから、変異体分子の性質と抗癌剤の効果を再現可能な系であることが示された。加えて、細胞膜ドメインの構成脂質を減少させた計測を行い、受容体の動態と二量体/多量体の形成が、下流のシグナル伝達との関係を反映することも明らかになった。分子動態から、受容体の活性化のみならず、細胞応答まで読み取れることがメカニズムとともに分かってきた。これらの結果は現在2本の論文としてまとめており、2021年内の投稿を予定している。 一方、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって分子内構造と動態の相関を探る計測に関しては、蛍光ラベルの改善が不可欠となっていたが、コロナ禍のため共同研究が滞り計画を変更した。
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