従来の薬物輸送システム(DDS)は、「薬」を運搬体に内包させ、がんなどの疾患部位へと送達する。しかし、運搬体からの薬の漏出に伴う副作用と薬効低下が問題となっており、安全かつ治療効果の高い、新しい医療戦略が求められている。 このような背景のもと、本研究では、抗がん剤などの薬を必要とせず、がん局所で薬を合成する好中球類似のナノデバイスを創製し、従来型のDDSの課題を克服した治療システムの構築を目的とした。 本年度は、前年度開発した低pHで親水化するポリマーと先行研究の糖鎖ポリマーとの混合により低pH環境下で透過能が亢進するベシクルを作成し、その内部の酵素の封入ならびにその機能評価を行った。 モデル酵素である乳酸オキシダーゼを、先行研究で最適化された直接水和法により上記のベシクルに内包させた。この際、内包率を向上させるために、ポリマー、酵素の濃度を変えて最適化を図った。作成したLAO内包ベシクルを用いて、乳酸オキシダーゼの活性評価を、pH=6.8において過酸化水素生成量をHRP/ABTS法による比色法により評価したところ、確かに、過酸化水素が産生していることが明らかとなった。
|