研究課題
本年度では、1粒子形状の高解像度測定を可能にする極薄ナノポアを創製することを目的とした。まず厚さ10nm以下の窒化シリコンメンブレンをシリコンウエハ上に形成させ、電子線リソグラフィー等ナノ加工技術によりナノポアポア作製を試みた。従来のプロセスでは、はじめにメンブレンを形成し、その後ポアを開口させていたが、10nm以下のメンブレン厚さでは、その機械強度が弱く、加工中にメンブレンが破損する傾向があった。そこで、Cr保護層の導入等加工工程の改良を繰り返し、直径300nm~40nm、深さ数nmのナノポア作製プロセスを新たに構築した。さらに、この極薄メンブレンナノポアにおいて懸念される、RC効果による電流応答の低速化に対して、ナノポアチップ表面上にポリマー被覆を施すことで、低電気容量化を図った。その結果、ポリマー被覆はチップの片面に施すだけで、従来の窒化シリコンメンブレンにおける数十nFレベルのキャパシタンスを3桁低減させることが可能なことを明らかにした。この新たに開発したナノポアを用い、ナノ粒子や生体粒子の1粒子検出を実施したところ、ポリマー被覆によって電流応答の高速化が実現できただけでなく、電流ノイズが従来デバイスに比して1桁近く低減できた。また、以上の結果から、基板シリコンの組成を変えることでも、ナノポアチップの低容量化が実現できる可能性を見出し、これを実証することに成功した。これは想定以上の成果である。そして、ナノポア計測プログラムの改良を行い、イオン電流を指標とした電気泳動電圧のフィードバック制御による1粒子の繰り返しナノポア通過を実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、ナノポアチップの低電気容量化は、ナノポアチップの両面を厚膜ポリマーで被覆する必要があると考えていたが、これは、ナノ流路やナノ電極を組み込んだ集積ナノポアデバイスの作製を極めて困難にするアイディアであると懸念していた。一方、本年においてポリマー被覆ナノポアの創製を進める中で、ナノポアチップの等価回路を明らかにしながら、ポリマー被覆はチップの片面に施すだけで十分であり、さらにはポリマー被覆なしでも、シリコン基板の組成を最適化するだけで、ナノポアチップの低容量化が実現できることが実証できた。これらのデバイス構造では、ナノポア近傍に厚膜ポリマーを付与する必要がないため、集積ナノポアの加工プロセスにも容易に組み込むことができる。これは、当初予測していなかった成果である。
今後は、本年度に創製した高速電流応答ナノポアを用いて、様々な形状のナノ粒子の1粒子計測を実施し、その空間分解能を明らかにする。現在までのところ、研究計画は当初の計画以上に進展しており、今後の計画遂行においても特に問題が生じることは無いと考えている。
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