本年度では、極薄ナノポアセンサを用いたタンパク質の1分子検出を目的とした。まず、直径50nmの極薄ナノポアを作製し、タンパク質の1分子検出を実施した。その結果、タンパク質分子が当該ナノポアを通過したことを示唆するイオン電流信号が観測された。一方、その通過時間は短く、イオン電流波形による詳細な1分子解析は困難であった。そこで、1分子泳動制御のための新規デバイスを創製した。具体的には、ナノポアの周囲にサラウンドゲート電極を集積したゲーティングナノポア構造を作製し、ゲート電圧による泳動制御法を創成した。動作実証に200nmサイズのナノ粒子を用い、その泳動ダイナミクスを調べたところ、ゲート電圧によってナノポア壁面の電荷状態並びに電気浸透流の向きと勢いを自在に変調することで、ナノ粒子をナノポア上に長時間保持するだけでなく、その泳動速度を数十nm/sの極低速にすることが可能になることを実証した。加えて、塩濃度勾配による泳動速度低減を試し、ナノポア間に5倍の塩濃度差を設けることで、泳動速度を数倍低くすることができ、物質の検出効率も同時に数倍向上させることが可能であることを実験的に明らかにすることができた。さらに、イオン電流に現れる分子の細かな構造を反映した微弱な応答をノイズと区別して解析しやすくするために、深層学習を取り入れたノイズ除去法も創成した。以上のように、タンパク質の1分子解析のための固体ナノポア技術を確立することに成功した。
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