研究課題/領域番号 |
18H01859
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長久保 白 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70751113)
|
研究分担者 |
森山 貴広 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50643326)
塩田 陽一 京都大学, 化学研究所, 助教 (70738070)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 反強磁性体 / ナノ薄膜 / フォノン / マグノン / カップリング |
研究実績の概要 |
本研究ではフェムト秒パルスレーザーを用いたポンプ・プローブ法を用い、フォノン(超音波)とマグノン(磁化振動)の相互作用・カップリングを通じてナノ薄膜中における反強磁性共鳴の励起・検出を目的としている。そのためには高周波フォノンを反強磁性ナノ薄膜に励起することが必要である。昨年度は高周波フォノンの励起源としてPtナノ薄膜を、反強磁性ナノ薄膜としてNiOを採用し、これら材料の周期多層ナノ薄膜をAl2O3基板上に作製し、一連の実験を行った。まず高周波フォノンを励起するためには膜厚の薄い試料を作製することが必要である。しかし、膜厚の薄いNiO薄膜は反強磁性特性を示さない場合があるため、結晶性が高く欠陥の少ない高品質な薄膜を作製する必要があるので、PtもNiOもエピタキシャル成長させることができるAl2O3基板を採用した。だが報告されている両材料をエピタキシャル成長させるための最適成膜温度は異なる。そこで単層試料、多層試料をそれぞれ作成し、結晶性をX線構造解析により評価することで結晶性の高いPt/NiO多層膜を作製するができる条件を見出し、高周波フォノンを励起することに成功した。励起したフォノンの周波数は膜構造及び推定音速から計算した結果とおおむね一致し、共振周波数を膜構造によってデザインすることができることも確認した。これは今後、基板を加工することなどにより励起したフォノンを膜内に閉じ込める改良を施し、周波数を一致させることでカップリングの実現へとつながる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに高品質な多層膜試料の作製と、約0.3-1 THzに渡る音響共鳴の励起検出に成功しており、またその共振周波数も多層膜共振モデルを用いて数値計算により十分推測することができ、サブTHz帯におけるフォノン周波数の制御は順調に進行している。作製した多層膜試料は単層膜試料と比較しても遜色がないほど結晶性や平行度が高いことが分かり、高品質なナノ多層薄膜試料を自在に作製することが分かり、これはこの研究の主目的である金属ナノ薄膜で高周波フォノンを励起し、そのフォノンによって反強磁性共鳴を引き起こすことに欠かせない、重要な知見である。 また基板を変更することで試料の結晶性は低下する一方、フォノン共鳴の振幅は大幅に向上することも見出した。結晶性の高いナノ多層薄膜は基板へのフォノンエネルギのロスが大きくカップリングに不向きである。これを改善するために基板を変更したところ、フォノン周波数は影響を受けない一方、振幅を大幅に向上させることができることが分かった。以上より現在までの時点で金属/反強磁性体のナノ多層薄膜の作製とその音響特性の制御は順調に進行している。これらの知見は今後の研究の中でフォノン周波数の制御、ナノ反強磁性薄膜の作製、フォノンとマグノンのカップリングを同時に成し遂げるのに大いに貢献する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はまず反強磁性ナノ多層薄膜の試料構造、基板処理などをさらに改良することで、フォノン周波数や薄膜の結晶性を制御しつつ、フォノン振動をナノ多層薄膜内にとどめカップリングを引き起こしやすくすることを目指す。そのためには大きく分けて3つの方針がある。1つ目は基板上にバッファ層を作製することでフォノンをナノ多層薄膜に閉じ込める方針である。Al2O3とNiOは音響インピーダンスが非常に近いため音の透過率が高い。一方、Ptは音響インピーダンスが倍程度あり、フォノンの閉じ込めに寄与する。また更に音響ミラー構造を作製することで特定の周波数のフォノンのみを閉じ込める研究も報告されており、適切なバッファ層によりフォノンを閉じ込めることが可能であると考える。2つ目は音響インピーダンスが大きく異なる基板上にバッファ層を作製することで多層膜薄膜の結晶性を向上させる方策である。音響インピーダンスが低いSi基板上に作製した多層膜ではフォノン振幅が大きく向上した。また一方、Si基板上にTaなどのバッファ層を成膜してからPt単層膜を作製した試料では結晶性が大きく向上した。従って、Si基板上にTaなどのバッファ層を成膜してからPt/NiO多層膜を作製すれば、多層膜の結晶性を担保しつつ、フォノンを多層膜中に閉じ込めることが可能であると考えられる。3つ目の方針として、成膜後に試料や薄膜をエッチング加工することで部分的に自立膜構造を作成する方針である。反応性ガスや酸塩基溶液を用いて薄膜下部の基板を取り除くことによりナノ薄膜を自立状態にすることも可能である。このような試料構造にすることで更に効果的にフォノンを薄膜中に閉じ込めることが可能になる。 そのほか、強磁性体中におけるフォノン・マグノンカップリングやほかの反強磁性ナノ薄膜・バルク材を用いた別角度からのアプローチも進めながら研究に取り組む。
|