研究課題/領域番号 |
18H01860
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒木 和彦 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10242091)
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研究分担者 |
永崎 洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 首席研究員 (20242018)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / バンド構造 / 物質設計 / 高圧合成 |
研究実績の概要 |
理論的な研究においては、ワイドバンドとナローバンド共存系において超伝導に有利になる条件を、従来までの擬1次元系から2次元系、さらに3次元系にまで拡張して、広範囲のパラメーター領域にわたって調べた。その結果、バンド端の状態密度が大きくない2次元系においても、擬1次元系と同様に、超伝導が強く増強されることを見出した。これにより、ワイドバンドとナローバンド共存による高温超伝導を探索する領域が拡大されたことになる。Sr3V2O7とSr3V2(O,H)7については、バンド計算と模型構築を行い、現在、超伝導の可能性を理論的に探究している。また、ある種の銅酸化物超伝導体の電子状態の解析をしたところ、ワイドバンドとナローバンドが共存するLieb格子型の電子状態になっていることを見出した。 実験研究においては、高圧合成法を用いて、Sr3Mo2O7-dの純良多結晶試料の合成法を確立した。出発組成の酸素量(δ)を変化させた一連の試料を作成し、粉末x線回折によって分析を行ったところ、目的の結晶構造が得られるのはδ=0.3付近の極めて狭い領域であることを明らかにした。本結果は、Sr3Mo2O7-dには本質的に酸素欠損が存在していることを示しており、酸素欠損の存在が、理論で予想されている超伝導の出現を妨げていることを強く示唆する。酸素欠損の量と配置を同定するために同試料を用いた粉末中性子散乱を行い、現在結果の解析を行っている。また、Sr3V2O7-d系については、Vの価数が3.5価になると報告がなされているEu3V2O7の作成を試みたが、文献通りの結果は再現されなかった。Lieb格子物質については、銅酸化物高温超伝導体類縁化合物において候補物質が発見され、同物質の構造・組成の同定に向けた研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論面においては、ワイドバンド・ナローバンド共存による超伝導発現に有利な条件を詰めることができており、今後の実験研究への提案の幅が広がった。また、Sr3V2O7とSr3V2(O,H)7については、当初予定通り、バンド計算と理論模型構築を行い、超伝導の可能性の解析に入っている。実験面には、理論予想に反して、Sr3Mo2O7において超伝導が起こっていない要因が、酸素欠損によるものであることを、確定させることができた。この問題をどのように回避するかは次のステップへの課題となっている一方で、銅酸化物におけるLieb格子の実現という、当初予想していなかった可能性が、実験と理論の協力により浮上している。Lieb格子は古くから知られている、平坦バンドと分散性のバンドが共存する系であるが、現実の超伝導体でそれが実現するのであれば、非常に興味深い展開である。上記のように、総合的に考えると、おおむね順調に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
理論面においては、構築されたSr3V2O5H2における梯子型電子状態が実現する可能性を探り、それに基づいた超伝導発現の可能性を探る。梯子型銅酸化物の電子状態を詳細に検討し、特に正負の一軸的圧力効果によって、ワイドバンドとナローバンドの相対関係がどのように変化するかを調べ、それによって超伝導に有利となる状況を特定する。これをRuddlesden-Popper型化合物における梯子型電子状態の問題にフィードバックし、これらの物質において超伝導に有利になる結晶構造変調や元素置換の考案に結び付けることを目指す。また、銅酸化物において酸素欠損を利用することにより、Lieb格子に類似した電子状態が実現する可能性を探り、そのナローバンドを活かした高温超伝導発現の可能性を検証する。さらに、これまでに引き続き、ワイドバンド・ナローバンドが共存する種々の模型を広範囲に解析し、高温超伝導発現に有利となる条件を探究する。
実験面においては、Sr3Mo2O7の中性子散乱実験を終えたので、その結果を基に酸素欠損量、およびその配置を決定する。得られた結果を理論計算の結果と比較し、現存する試料で超伝導が出現しない理由を明らかにするとともに、酸素欠損の除去に取り組む。同様に、Sr3V2O7の試料を合成、中性子散乱を行い、本物質の酸素欠損に関する情報を得る。また、理論で高Tcが期待されているSr3V2O5H2への高濃度電子ドーピング、銅酸化物におけるLieb格子物質の探索にも取り組む。
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