研究課題/領域番号 |
18H01861
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
植村 隆文 大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授(常勤) (30448097)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 低周波ノイズ / 増幅回路 / 微小信号 |
研究実績の概要 |
Internet of Things技術による社会基盤の高度化と共に、各種物理センサ向けの微小信号検出技術が重要になっている。本研究は、有機トランジスタの低周波ノイズ解析により、そのノイズ発生の物理要因を明らかにし、高感度センサ実現に資する低ノイズ・フレキシブル信号増幅回路を実現する事を目的としている。 2019年度は、有機トランジスタにおける半導体・絶縁膜の界面修飾技術による低ノイズ化を実現した。ノイズ量が有機半導体中のキャリアトラップ密度と相関することを見出し、論文成果として報告を行った。論文において報告した有機トランジスタノイズは、デバイス面積、電流量で規格化し、既報告の有機トランジスタノイズと比較した場合において世界最小のノイズ量を示し、微小信号増幅回路に適したトランジスタ構成である事が示された。 本研究申請当初に掲げていた①接触抵抗、②有機半導体材料種、③結晶粒界、④界面制御技術の4項目の検討のうち、①接触抵抗については、デバイス全抵抗のうち40%を接触抵抗が占めるデバイスにおいて、優位なノイズ量増加が確認されず、チャネル中でのキャリアの振る舞いがノイズ量に寄与する割合が大きいことが示唆される結果が得られた。④界面制御技術については、界面の修飾分子の違いによってノイズ量が2桁程度異なるトランジスタデバイスが実現し、ノイズ抑制手段として現状では最も効果的なアプローチである事が明確に示された。③結晶粒界については、界面制御との相関性も大きく、現状では明確な結論には至っていない。②有機半導体材料種の検討については、過去の文献値との比較調査を踏まえた上で、上記にも記載した通り世界最小のノイズ量を示す有機半導体材料種を見出すに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、有機トランジスタにおける低周波ノイズ解析により、そのノイズ発生の物理要因を明らかにする事を目的としている。その中で、種々のプロセス技術を活用し、①接触抵抗、②有機半導体材料種、③結晶粒界、④界面制御技術の4項目のデバイス・パラメータとノイズ密度の相関を明らかにするというアプローチを採用している。 ①接触抵抗については、無機半導体技術に比べて、有機トランジスタではデバイス抵抗に占める割合が大きい場合があるが、それでも現在のところ接触抵抗のノイズへの寄与は確認されていない。これは、金属・有機半導体接合において生じる抵抗はノイズへの影響が小さいということを意味しており、デバイス構造の中では半導体中、または半導体・絶縁膜界面に起因するノイズが主である事を示す事が出来た。そのため、計画通りに②有機半導体材料種、③結晶粒界、④界面制御技術の改善に注力した。 ④界面制御技術においては、計画通り、界面修飾用の分子を半導体・絶縁膜界面に導入し、トラップ密度を減らすことによってノイズ量を最小化することに成功した。③結晶粒界の影響については、④界面制御によって結晶粒界の大小を制御可能であったが、粒界の影響を定量的に比較検討することが現状では困難であるため、解析議論には至っていない。 一方、②有機半導体材料種については、いくつかの高移動度有機半導体材料を用いて評価を行っているが、必ずしも高移動度材料において低ノイズ・トランジスタが実現するとは限らない結果が得られている。今後、この点における詳細な実験、データ解析により、有機トランジスタにおける低周波ノイズの本質に迫る議論が可能になると期待して研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べたとおり、②有機半導体材料種については、いくつかの高移動度有機半導体材料を用いて評価を行っているが、必ずしも高移動度材料において低ノイズ・トランジスタが実現するとは限らない結果が得られている。今後、この点における詳細な実験、データ解析により、有機トランジスタにおける低周波ノイズの本質に迫る議論が可能になると期待して研究を進める。 加えて、最終目標に掲げるnVレベルの微小信号計測に向けた更なる低ノイズ化に向けて、他の界面修飾技術方法についても検討を行い、より一層の低ノイズ化を実現する技術についても目処を付けることに成功しており、この技術を基にして、信号増幅回路の開発を継続する予定である。 微小信号増幅回路では、増幅回路が計測可能な信号帯域が有機トランジスタの動作速度に律速されるため、可能な限り高速に動作可能なデバイス、すなわち短チャネルデバイスの活用が望まれる。そのため、有機トランジスタの低ノイズ性を犠牲にすることなく、短チャネル化を達成するためには、トランジスタノイズ量への接触抵抗の影響を更に定量的に理解すべく、実験を進める予定である。 以上の取組みにより、有機トランジスタ中の低周波ノイズの発生メカニズムを深く理解し、更にその理解に基づき、デバイス構造、材料、プロセスを最適化することで有機トランジスタの内在ノイズを最小化する。また、最終目標となるnVレベルの微小信号計測に向けた低ノイズ・フレキシブル信号増幅回路の実現に向けた取り組みを行う予定である。
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