研究課題/領域番号 |
18H01862
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
福間 康裕 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (90513466)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピン波 / 多数決論理演算 / 界面磁気異方性 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究は、スピン波干渉を利用した多数決論理演算機能の実現に向けた基盤技術の構築を目的とする。演算素子応用に向けては頻繁な磁気励起(情報の入力)が不可欠であり、低消費電力のスピン波生成手法を確立することを目的として電圧駆動型の界面磁気異方性変調技術に注目した。トンネル磁気抵抗素子等のスピントロニクス応用で広く利用されているMgO/CoFeB接合において、界面磁気異方性の対称性を磁場中熱処理により制御できることを明らかにした。これによりMgO/CoFeB接合界面に交流電圧を印加することで磁化ダイナミクスの励起に成功した。励起強度依存性の計測により短波長のスピン波の励起を確認した。また、高いコヒーレンスをもつスピン波に必要な絶縁性磁性体である高品質なY3Fe5O12薄膜の作製技術を確立した。2つの入力用誘導結合性アンテナおよび1つの出力用誘導性結合アンテナをY3Fe5O12薄膜上に作製し、スペクトラムアナライザおよびベクトルネットワークアナライザによりスピン波の検出を行った。2つの入力部へと印加するマイクロ波信号の位相差を変えることで出力側の信号強度が変化することを観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電圧駆動型のスピン波励起手法の確立に向けて、MgO/CoFeB接合における界面磁気異方性の制御に取り組んだ。熱処理条件の最適化に取り組み、100℃~200℃の温度で熱処理中の磁場印加方向により界面磁気異方性の対称性を制御できることを明らかにした。この熱処理により誘起された磁気異方性の温度依存性や電圧応用を計測することでMgO/CoFeB接合界面に由来することを明らかにした。また、交流電圧をMgO/CoFeB接合に印加することで磁化ダイナミクスの励起に成功し、検出信号の印加磁場方向依存性を解析することでその電圧による界面磁気異方性の変化分が50%+印加したマイクロ波成分が50%の寄与により励起されていることがわかった。また、高いコヒーレンスをもつスピン波を生成することを目的にガーネット磁性薄膜の作製に取り組んだ。スパッタ法によりY3Fe5O12薄膜をGd3Ga5O12基板上に作製した。高品質な結晶性をもつ薄膜の成長に成功し、40nm膜厚にて~0.0001程度のダンピング定数を実現した。CoFeBと比較して二桁程度の小さなダンピング定数であることから高いコヒーレンスをもつスピン波の生成が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
MgO/CoFeB接合に関して、素子構造を変更あるいは界面品質の向上により100%の電圧駆動型の磁化ダイナミクスの励起およびスピン波励起技術の確立を目指す。また、電極サイズの微細化や非線形励起現象を利用してナノスケールの波長をもつスピン波を生成する。 Y3Fe5O12薄膜に関して、電極を作製して界面磁気異方性の電界制御および電圧駆動型のスピン波励起手法の実現を目指す。素子作製に向けた基盤技術は構築されつつあり、今後はマイクロマグネティックシミュレーションにより素子設計やスピン波の干渉を利用した多数決論理演算の実証に取り組む。
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