研究課題
積層薄膜リチウム電池の正極膜と電解質膜の境界面に形成されると計算予測される、リチウム濃度が急峻に変化する層を空間電荷層(あるいは空乏層)と呼ぶ。これの存在の有無を、スピン偏極ビームであるミュオンや8Liを用いて明らかにするのが第1目標である。このため、カナダTRIUMFのβ-NMR施設で、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2/Li3PO4の積層薄膜について、8Liの打ち込み深さを変えながら界面近傍でのβ-NMRの共鳴線線幅の変化を調べた。しかし、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2中の共鳴線幅がかなり拡がっているため、界面での明瞭な変化が見えなかった。これについては、2019年度にLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2単独膜を測定して共鳴線幅を決定し、それを基にデータを解析する。一方、スイスPSIの低速ミュオン装置を用いて、LiCoO2/Li3PO4の積層膜の界面を、ミュオンの打ち込み深さを変えながら、正ミュオン用いたミュオンスピン回転緩和(μ+SR)法で測定した。界面近傍で明瞭なスピン-スピン緩和率の局所的減少が観測された。これについては、2019年度に再現実験と温度依存性測定を行う予定である。水素貯蔵材料内の水素脱離反応を、μ+SRと試料セル内の圧力測定を組み合わせた所謂「in situ μ+SR」法で観測し、貯蔵材料内の水素拡散が反応を進める鍵になることを明らかにした。本結果はSustainable Energy & Fuels誌に掲載され、J-PARC、KEK、CROSS東海が共同でプレスリリースした(2019年4/12)。さらに固体内の水素拡散を正確に調べるために、新たに負ミュオンを用いたミュオンスピン回転緩和(μ-SR)を、J-PARCにて実現した。室温のみの測定だったが、水素の核スピンによる内部磁場を観測した結果は、Physical Review Letters誌に掲載され、KEK、原研、J-PARC等が共同でプレスリリースした(2018年8/24)。これについては、温度依存性の測定を行うとともに、種々の試料で測定を行い、解析法を含めて新たな測定手法として確立する。
1: 当初の計画以上に進展している
順調に実験結果が出ており、提案実験のビームタイムもほぼ予想通り認められているから。実験結果については、1)水素の濃度や運動を調べるために、世界で初めて、負ミュオンスピン回転緩和実験により、水素化物中で水素の作る核磁場とその揺動を見出した。本結果を公表したPRL論文は、Editos SuggesitionとFeatured in Physicsに選定され、高エネ研等が主体となってプレスリリースされた。2)大強度の正ミュオンを用いた、反応過程のその場同時測定、所謂in situ μSRを実現した。これにより水素貯蔵材料の脱離温度を決める固体内水素拡散を求めた結果は、Sustainable Energy and Fuels誌に掲載され、カバーを飾ると共にJ-PARCが主体となってプレスリリースした。
Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2単独膜の8Liによるβ-NMR測定を、2019年7月にTRIUMFで実施する。これにより、積層薄膜のデータの解析も可能となる。LiCoO2/Li3PO4多層膜界面の低速ミュオンを用いたμSRを、2019年晩秋にPSIで調べる。これにより、再現性や温度依存性が明らかになり、空間欠乏層存在の決定的証明になると期待される。MgH2、MgBr2、LiFePO4について、負ミュオンによるμ-SR測定をJ-PARCとISISで実施し、イオン拡散や磁性に関する新たな情報を得る。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Scientific Reports
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Sustainable Energy & Fuels
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