研究課題
Li電池の電極(LiCoO2)と電解質(Li3PO4)から成る積層多層膜について、電極と電解質界面付近でのLi濃度異常の有無を、PSIの低速ミュオンを用いて調べた。膜厚構成を変えた2試料について、温度を変えながら、界面付近でのスピン-スピン緩和率の膜厚依存性を調べた。測定結果と各種シュミレーション予測から判断すると、充放電前の界面ではスピン-スピン緩和率の異常、つまりLi濃度の変化は検出限界以下だった。この結果をまとめて発表すると同時に、充放電後の界面の観測に展開する。光照射により絶縁体-金属転移を示すYO2H1膜について、光照射による水素拡散の有無をβ-NMRで調べた。250K以上の温度域では、光照射膜のみでスピン-格子緩和率の明瞭な増大が認められた。これは光照射膜中の水素拡散を示唆し、拡散水素によるキャリ注入が薄膜の金属化の原因と考えられる。イオン拡散種を決定するために、典型的ないくつかの材料(MgH2, LiMnPO4, Na0.7CoO2, MgB2)について、正負ミュオンによる拡散測定を行なった。Li電池材料であるオリビン系LiMnPO4では、拡散種がLiであることを確認した。清掃薄膜では格子ミスマッチによる格子歪が必然的に生じる。この効果を明らかにするために、超高圧下でのミュオン実験を実施した。予備的な測定で、擬1次元系のBaVS3について、磁気転移と印加圧力の関係を明らかにした。早急に論文化するとともに、学会発表を進める。ミュオンスピン回転緩和(μ+SR)測定を電子状態計算と組み合わせることにより、従来のμ+SRでは困難だった強磁性体(具体的にはNd2Fe14B)の内部磁場解析を可能とした。この技術を新たな強磁性体物質群へも展開した。
2: おおむね順調に進展している
充放電前の界面観察については、ほぼ結論を出すことができた。これにより次の段階に進める。光誘起の絶縁体-金属膜についても、水素拡散の兆候を観測した。正負ミュオンによる測定で、水素貯蔵材料やLiイオン電池材料の拡散種が、水素・Liであることを確認した。界面歪の効果を確かめる超高圧測定の予備実験で、BaVS3の圧力磁気状態図を決定した。以上により順調に推移している。またビームタイムも適切に獲得している。
積層薄膜界面については、充放電後の状態観測を検討する。また進行中のいくつかの実験については、公表(論文作成)を図る。2020年度は海外施設の利用が困難かもしれない。そこで、新たな実験も計画する。特に放射線医学総合研究所にて、酸素同位体を使うβ-NMR実験により、固体中の酸素拡散測定の可能性を調べる予定である。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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