研究課題
局所磁気プローブである「正ミュオンスピン回転緩和(μ+SR)」と「8Liのβ崩壊をを検出するβ-NMR」により、全固体電池で重要な電解質と電極の界面の状況をいくつかの組み合わせで調べた。測定した積層薄膜界面での空間電荷層は測定限界以下であるとの結論に達した。これは電気化学測定の結果とも整合した。水素合成材料として研究されているNbHx膜中の水素拡散挙動をカナダTRIUMFのβ-NMRにより調べ、水素濃度の増加に伴い拡散挙動が顕著になることを明らかにした。これら薄膜材料研究の基本データとなるバルク材料中のイオン拡散と磁性についても、同様にμ+SRとβ-NMRを用いて調べた。特に開発中の負ミュオンをプローブとするμ-SRを併用することにより、拡散種の同定を試みた。Liが拡散することを確認できたLiMnPO4については、その結果を論文として公表するとともにプレスリリースした。Na電池材料として研究されてきたNa0.7CoO2については、負ミュオン位置でのNa核磁場の寄与が全体の約3%なので、Na拡散による核磁場変化をμ-SRでは捉えられなかった。界面における電解質と電極材料の格子ミスマッチによる応力が内部磁場に及ぼす効果を明らかにすることを最終目標に、高圧下でのμ+SR測定により内部磁場の変化も測定した。特に擬1次元系のBaVSe3については、強磁性相への転移温度が、1.6GPa以下の低圧力側では圧力とともに減少、それより高圧力側では圧力とともに増加する現象を見出した。「物質中のミュオン位置」と強磁性体で零以外の値となる「ミュオン位置での局所スピン密度」を電子状態計算で求め、μ+SRの与える局所内部磁場のより詳細な解析を行った。特に上記の強磁性体であるBaVSe3については可能な磁気構造を決定した。またA型反強磁性(面内強磁性・面間反強磁性)のNaNiO2についても、その内部磁場を詳細に解析した。
2: おおむね順調に進展している
コロナ渦のために渡航しての海外施設での実験は不可能だったが、各施設の担当者あるいはスウェーデンの研究者との共同による、リモート実験により、ほぼ予定通り研究を遂行することができた。問題は複雑な準備を要する実験、例えばin situ実験等が行えなかったことである。それ以外については;・水素直接製造に有用と期待されるNbHx薄膜中の水素拡散を確認した。・正負のミュオン研究をさらに進展させた(スピネル系材料へ展開)。・高圧実験や電子状態計算の併用により、バルク材料(BaVSe3とNaNiO2)についても、新たな成果を示した。
・全固体電池の界面については、スイスPSIにて再現性の確認実験を行う。・バルク材料については、強磁性体の内部磁場解析を主体にカナダTRIUMFとPSIを利用して進める。・電子状態計算ソフトの導入により、より多くの材料についてミュオン位置と局所スピン密度を求めて、実験結果の解析に反映させる。・得られた結果を順次公表・論文化する。・なお、海外施設での実験については、2020年度と同様に、リモート実験と海外研究者との共同研究を駆使して遂行する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 9件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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