SrTiO3基板上に堆積したFeSe単層薄膜は、ex-situの抵抗測定によって、転移温度40Kの高温超伝導を示すことが報告されている。また、in-situの分光学的手法によって、Tc=65Kに相当する超伝導ギャップが測定されている。この抵抗測定と分光測定で異なるTcを示す要因を探求するため、トンネル分光法を用いて、抵抗測定とギャップ測定を同時に行える素子を作製した。
SrTiO3基板に、FeSe極薄膜とInSeを堆積し、電気二重層トランジスタ構造に加工した。InSeはFeSeの劣化防止の保護層及び分光測定のトンネル障壁としてはたらく。また、電気二重層トランジスタによって、FeSe層への高濃度の電子蓄積が可能となり、40K級の超伝導を誘起できる。トンネル分光用の電極は電子線リソグラフィーを用いて作製した。本素子によって、抵抗測定による超伝導転移と、超伝導ギャップの同時測定を行うことができる。InSeで表面を保護したFeSe極薄膜をチャネルとした電気二重層トランジスタにおいて、ゲート電圧印加時によって、約40KのTcが抵抗測定から得られた。また、同時に測定したInSeをトンネル障壁とした分光測定では、非線形の電流電圧特性が40 Kまで得られた。従って、観測された非線形の電流電圧特性は、超伝導ギャップを反映していると示唆される。今後、トンネル接合の高品質化による擬ギャップ構造や詳細な磁場依存性を評価することで、高温超伝導の発現機構の解明が期待できる。
|