研究課題/領域番号 |
18H01876
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉澤 俊介 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (60583276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / 表面・界面 / 走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性の破れた超伝導体において、磁場によってさらに時間反転対称性を破ると、クーパー対が重心運動量をもった「ヘリカル超伝導相」とよばれる新奇状態に転移することが予言されている。この状態の存在を実証するには、(1) 空間反転対称性の無い超伝導体で、(2) 渦糸侵入による超伝導破壊のない状況をつくり、(3) 原子レベルで清浄・平坦な表面を用意した上で、極低温走査トンネル顕微鏡(STM)による強磁場トンネル分光測定を行うことが求められる。本研究提案では、半導体基板上の「表面原子層超伝導体」がこれらの条件を満たすことに着目し、これに強い平行磁場をかけた状態で測定できる極低温STMを開発し、ヘリカル超伝導相の実空間観測を目指す。 平成30年度はヘリウム3クライオスタットを既存の超伝導マグネットシステムに合うようカスタマイズして導入した。クライオスタット内の配線や熱アンカー等に用いる材料を選定し、準備した。これと合わせて STM ヘッドの設計も進めた。また、測定対象であるインジウムからなる表面原子層超伝導体の物性評価にも進展があった。これまでの電気伝導測定から平行磁場に対する臨界磁場がパウリ極限より大きくなっている可能性が高いことを確かめており、そのメカニズムをバンド構造から理解するためスピン軌道相互作用を取り込んだ第一原理計算を行った。計算結果を解析するとフェルミ面がスピン分裂していることに加え、フェルミ速度が異方的であることがわかった。自由電子的なフェルミ面を仮定する従来から用いられてきた解析方法は不正確だと考えられるので、フェルミ面の異方性を取り込んだ再解析を行った。また、バンド構造の異方性を取り入れた臨界磁場計算を理論家と協力して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りクライオスタット本体の開発が進んでおり、測定対象物質の解析でも新しい情報が得られていることから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度に製作したクライオスタットの冷却テストを行い、内部の配線を熱アンカーやノイズフィルタを含め最適化を行う。これと並行して STM ヘッドの開発を進める。また、試料交換用の小さなチャンバーを製作する。できる限り既存の真空部品を流用することで開発期間を短縮し、予算を有効に利用する。 また、表面原子層超伝導体では表面における対称性の低下によりフェルミ面が異方的になっており、超伝導状態を理解するためにこの異方性を考慮する必要があることが分かってきた。等方的フェルミ面を仮定した従来の理論では理解が難しい可能性があるので、引き続き理論家と相談しながら研究を進めていく。
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