研究課題
本研究では、新たな収束ビーム反射高速電子回折(収束ビームRHEED)装置を開発し、実験および解析手法を高度化することにより、物質表面の原子配置および電子密度分布を実験的に決定することを目的としている。本年度は、回折ディスクの観測に特化した超高真空チャンバーの立ち上げおよび、テスト試料における回折ディスクの観測に着手した。収束ビームRHEED用超高真空チャンバーの立ち上げでは、前年度に開発した電子銃の仕様(ワーキングディスタンス、電子レンズのサイズ等)を考慮した専用の超高真空チャンバーを設計、製作した。超高真空チャンバー内での試料表面の清浄化のため、現有のマニピュレーターの先端部分を改造し、通電加熱および電子衝撃加熱機構を付加した。これにより、半導体、絶縁体、金属単結晶など様々な基板表面の清浄化に対応できる。また、超高真空チャンバー内で様々な元素を蒸着するため、抵抗加熱方式の蒸着源を整備した。さらに、効率よく試料を交換するため、ロードロックシステムを導入した。実際に、本装置においてSi(111)基板表面の清浄化を行い、7×7超構造由来の分数次回折スポットを観測した。動力学的回折理論に基づくこれまでの予備計算により、低視射角入射での回折ディスクの強度分布において表面原子の電子密度分布の有意な変化を確認している。現在、試料表面の中心位置で収束ビームを形成するため、開発した電子銃の各種レンズパラメーターの調整および最適化を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、収束ビームRHEED専用の超高真空チャンバー装置を立ち上げ、超高真空環境下における試料表面の清浄化および薄膜試料作製機構の整備を完了した。また、Si(111)-7×7表面を用いた実証試験にも着手した。
今後は、開発した収束ビームRHEED法を未知の表面系に適用し、原子配置と電子密度分布の同時決定を試みる。始めに、Si(111)-7×7表面を用いて本手法の実証試験を完了する。低視射角入射で回折ディスクを測定し、原子配置と価電子に起因する散乱振幅をフィッティングパラメーターとして用いることにより最適な原子配置と電子密度分布を実験的に決定する。第一原理計算結果を参考にして、本研究手法の妥当性を検証する。続いて、試料としてCo(0001)基板上の単層グラフェンを選択する。遷移金属上の単層グラフェンは、下地原子と強く結合し、電子軌道の混成によりフリースタンディングな状態で発現するディラックコーン(線形のエネルギー分散)が消失するが、そこに貴金属原子をインターカレートすることにより、ディラックコーンは復活する。本研究では、遷移金属上の単層グラフェンでのインターカレーションによる原子配置および電子密度分布の変化に着目する。具体的には、始めにCo基板上に合成した単層グラフェンからの収束ビームRHEED回折ディスクを測定する。動力学的回折理論に基づく強度計算との比較から、最適な原子配置と電子密度分布を実験的に決定する。その後、単層グラフェン上にAg原子を5原子層分蒸着し、600℃でアニールすることにより、Ag原子をグラフェン・Co基板界面にインターカレートさせる。同様にして回折ディスクの測定および解析を実施し、インターカレーション後の最適な原子配置と電子密度分布を決定する。
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Carbon
巻: 157 ページ: 857~862
10.1016/j.carbon.2019.10.070
陽電子科学
巻: 13 ページ: 3~10