研究課題/領域番号 |
18H01879
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山田 浩之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (00415762)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハフニア / 蛍石型酸化物薄膜 / 強誘電体 / 抵抗スイッチング / トンネル接合 |
研究実績の概要 |
HfO2系強誘電体をバリア層に用いたトンネル接合作製にむけ、平成30年度研究においては、Y(5%)ドープHfO2(YHO)を対象に、アモルファス前駆体の成長と2段階アニールを基本とした作製手法を開発した。これにより、超平坦(平均平坦度Rq=0.15nm)かつ10μmスケールで均一な強誘電YHO/ITOヘテロ接合を熱酸化シリコン上に構築することに成功した。しかし、YHO/ITOヘテロ接合では膜厚5nm以下での強誘電性維持は困難であった。そこで令和元年度研究においては、YHOよりロバストな強誘電性が期待されるHf1-xZrxO2 (HZO;x=0,0.5,1)にトンネルバリア層を変更した。まずYHO/ITOヘテロ接合作製手法がHZO系にも適用可能であることを実証し、トンネル接合に適した超平坦(Rq=0.15nm)で、膜厚2~4nmのHZO/ITOヘテロ接合の作製に成功した。次にPtを上部電極に用いたPt/HZO/ITOトンネル接合を構築し、強誘電特性および電流-電圧特性を評価し、以下の結果を得た。①膜厚3~4nmのHZO(x=0.5)を用いたトンネル接合は、ダイナミック電流-電圧特性において電流ピーク、すなわち強誘電性を示した。②膜厚2~3nmにおいては、電流-電圧特性においてヒステリシスを示した。ヒステリシスは、HZO(x=0.5)を用いたトンネル接合で最も顕著であり、HfO2(x=0)では僅か、ZrO2(x=1.0)では観測されなかった。③ヒステリシス大きさ(抵抗変化比)は最大印加電圧(≒書込み電圧)に依存して連続的に増大した(アナログ抵抗変化)。これらの結果は、ハフニア系強誘電体を用いたトンネル接合において、単なる化学反応ではなく強誘電性に起因する「純粋な」トンネル抵抗スイッチングの発現を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハフニア系強誘電体はバンドギャップが大きく、これをもちいたトンネル接合は必然的に接合抵抗が高い。よってトンネル抵抗、すなわち低バイアスでの電流値を評価すること自体が困難である。しかし本研究課題においては、トンネル接合に好適な平坦性と、ミクロンスケールの均一性を有する極薄強誘電体を用いた蛍石型酸化物ヘテロ接合の作製に成功した。その結果、直径約1μm-3μmのトンネル接合の電流-電圧評価を、数種類のハフニア系強誘電体について系統的に行い、強誘電性による電子伝導特性への影響を抽出できたことは、目標の一つである強誘電抵抗スイッチングを実現したといえる。一方で、強誘電トンネル抵抗スイッチングの抵抗変化型不揮発性メモリへの応用に向けては、保持特性など、抵抗スイッチング特性に一部解決すべき問題も明らかになった。しかしながら、下記に記載するような解決のための指針も得ており、その準備状況も順調である。さらに、ハフニア系強誘電体を用いた蛍石型ヘテロ接合の超平坦成長の微視的な機構解明に関しても、透過型電子顕微鏡を用いた原子像および組成マッピングを実施し、その結果から、ハフニア系強誘電体は界面から擬エピタキシャル的に高対称性構造が成長していることを明らかにした。これらの理由により、本研究課題はおおむね順調に進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
強誘電トンネル接合の抵抗スイッチングに関しては、①強誘電ヘテロ接合を作製するための前駆体の均一性改善と、②強誘電トンネルバリア層の構成要素の検討を柱に抵抗スイッチング特性の向上を図る。①については、令和元年度研究までは、強誘電バリア層と下部電極層いずれもパルスレーザ堆積法(PLD)によって成膜していたが、本年度研究においては、下部電極層のみPLDによって作製し、強誘電層(HZO)については、原子層堆積法(ALD)による作製に注力する。これにより、平坦性を損ねることなく、均一性の向上及び強誘電性の安定化、すなわち、トンネル接合における抵抗スイッチングの保持特性・繰返し耐性の改善を図る。②に関しては、下部電極と強誘電層の界面に極薄の常誘電性を挿入して、トンネル伝導障壁の分極方向依存性(すなわち抵抗スイッチング比)を向上させる。しかし、常誘電層の存在によって肝心の強誘電性が消失してしまう恐れがある。また、トンネル接合では強誘電体自身が極薄膜であるため、常誘電体はさらに薄くする必要がある。このような超薄膜複合構造は、構造の特徴さえ評価が困難と予想される。このため、組成制御や材料探索に有利なPLDにより、HZOと常誘電層の候補となる材料を交互積層した多層膜の作製をおこない、その構造および強誘電特性の系統的評価も並行して実施する。その結果を①の研究にフィードバックしながら、相乗効果的にハフニア系強誘電体を用いた蛍石型ヘテロ接合・トンネル接合の研究を推進する。
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