大気圧酸素下での貴金属表面の触媒反応過程を原子スケールで明らかにし、実環境下での触媒反応の理解を深化させることを目的とした。前年度に引き続き、Pd(111)単結晶表面をPtで被覆した合金触媒について、Ptの被覆率を変化させたときの表面構造を静的な表面X線回折測定を用いた精密解析によって調べた。パラジウムを白金原子層で被覆することで、酸素の2p電子軌道と相互作用するパラジウムのd電子軌道の位置が変化して酸素還元反応活性が向上することが予測されていたが、実際の表面構造と酸素還元反応活性との関係は明らかにされていなかった。白金を約3原子層と約4原子層蒸着した試料についてそれぞれ解析した結果、白金原子はパラジウム表面を単純に被覆するだけでなく内部に侵入するとともにパラジウム原子を置換して結晶格子位置におさまることが分かった。昨年度行った白金を約1原子層と約2原子層蒸着した試料との比較により、白金原子を約2原子層蒸着した試料では最表面層が全て白金原子で被覆され、かつ下層のPt原子の占有率が小さくなることが明らかになり、別途測定した酸素還元反応活性において白金を約2原子層蒸着させたときに最大になることと対応していることが明らかになった。他方、今回用いたモデル試料と実触媒を比較するために、Pt@Pdナノ粒子についてX線吸収分光測定を行い、ナノ粒子状試料においても最表面がPt原子層で被覆されていることを確認した。また、フロー式小型反応室の立ち上げを前年度に引き続いて進め、ガスフローシステムおよび質量分析システムへの組み込みに成功した。前年度整備したフーリエ変換赤外分光光度計システムを用いて、酸素ガスフロー下において、Pt(111)表面および白金原子を2原子層被覆したPd(111)表面について赤外反射吸収分光測定を行い、表面吸着した酸素種の検出に成功した。
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