研究課題/領域番号 |
18H01882
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
齋藤 弥八 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (90144203)
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研究分担者 |
中原 仁 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (20293649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / グラフェン / 電子放出 / 電界放出 / 電界イオン顕微鏡 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
今年度得られた研究成果を,以下の3項目に分けて概説する。 (1)低速電子投影型電子顕微鏡の改良:CNTから放出される低速電子が周囲の磁界から受ける影響を抑えるために,非磁性材料を用いてエミッタおよび試料ホルダーを作製した。また,残留ガスの吸着脱離による放出電流の変動を下げるために,ターボ分子ポンプを増設してエミッタ室を直接排気する構造に改造した。これにより,真空圧力を10-5Paオーダーまで下げることができた。この真空圧力では,安定した電子放出を確保するにはまだ不十分であったが,低速電子投影顕微鏡観察を行った結果,5000倍の投影像を撮影することが出来た。 (2)吸着分子の動的挙動と原子分解能観察用の電界放出顕微鏡(FEM)装置の真空改善:エミッタ表面に吸着した分子の挙動を観察するための真空チャンバーのベース圧力の改善を目指し,真空漏れ探しを行ったが,特定するに至らず,10-6Pa台の真空圧力までしか到達しないのが現状である。このような真空においても,CNTの清浄表面に特徴的な五員環像を観察することができた。 (3)CNT表面およびグラフェン端に吸着した分子の動的挙動と原子分解能観察:CNTエミッタ表面への有機分子の吸着実験にはまだ至っていないが,吸着分子導入機構の作製は終えた。FEMとは別に,この顕微鏡法よりさらに空間分解能が高いと期待される電界イオン顕微鏡(FIM)観察を行い,グラフェン端および先端の開いたCNTにおいて,グラフェン端の両側に伸びた斑点のペアが配列したパターンを観察することが出来た。このパターンは,FIMの像形成機構から考えて,グラフェン端の炭素原子に局在するπ電子軌道の空間分布を反映した像と解釈するのが妥当との結論を得た。FEMおよびFIMにより,これまでにない詳細なグラフェン端の電子軌道に関する情報を得る事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CNT表面に吸着した分子の動的挙動と原子分解能観察の実施が遅れている。吸着させる分子種を残留ガス分子と区別して,FEMによりこれを明確に観察するには,残留ガスの吸着頻度を無視できる程度まで,FEM用真空チャンバーの圧力を下げる必要がある。具体的な真空圧力としては10-8Paオーダーの超高真空まで下げることが望ましいが,現状は10-7Pa台までしか至っていない。これは,わずかな真空漏れがあるためと考えられることから,漏れ探しを行なったが,明確な漏れ箇所を特定するに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要な研究項目に対して以下の方策のもとに,研究を実施する。 (1) エミッタ表面に吸着した分子の動的挙動と原子分解能観察:残留ガスの影響を受けずに、観察対象の分子の挙動を明瞭に確実に観察するには,エミッタを設置する真空チャンバーを超高真空に維持する必要があるが,この条件を未だ達成していないので,真空の改善を図りつつ,吸着用分子導入機構をこれに装着する。カーボンナノチューブ(CNT)エミッタ表面にフタロシアニンなどの有機分子を吸着させ,そのFEM像を観察し,FEM像の起源と分子の形の間の関係を明らかにする。 (2) 電子線の干渉実験装置の製作と干渉実験:現有のFEMを改造して,CNTエミッタ,電子線バイプリズムおよび観察スクリーンを配置する。電子線バイプリズムは極細の中心電極(正の電位)とその両側に配置した平面電極(接地電位)からなる。中央電極には,銀被覆された白金極細線(ウォラストン線)を硝酸処理により銀被覆を除去した直径0.625μmの白金極細線を用いる。CNTエミッタから放出された電子線のうち,2つの五員環からの電子波がこのバイプリズムの中央電極の両サイドをそれぞれ通過するように,CNTエミッタとバイプリズムの位置を調整する。中央電極に正の電圧を印加することにより,中央電極の両側にある五員環像を重畳し,干渉縞を得る。干渉縞のvisibilityと間隔から電子波の干渉性を評価する。 (3) 低速電子投影型顕微鏡の改良と性能評価:CNTから放出される低速電子が周囲の磁界から受ける影響を低減する磁気遮蔽、エミッタおよび試料ホルダーの非磁性化を更に進める。また,放出電流の変動もまだ大きいので,電子放出を安定化するために,昨年度に引き続き真空を図りつつ,単層CNTやグラフェンなどの軽元素で薄い試料を対象にして低速電子投影型顕微鏡観察を実施する。
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