1.エミッタ表面に吸着した分子の動的挙動と原子分解能観察:電界放出・電界イオン顕微鏡(FEM/FIM)の中で、大気にさらすことなく有機分子を堆積する装置を作製した。ペンタセンを観察対象に選び,その電界放出顕微鏡(FEM)および電界イオン顕微鏡(FIM)像の観察を行なった。CNT表面上に吸着させたペンタセンのFEM像は、2から4本の太い縞(干渉縞より太い)として現れ、五員環の上、および2つの五員環の間の領域に観察された。また,ネオンを結像ガスとするFIM観察では、繭形(亜鈴形)の輝点が観察され、その位置が刻々と変化し、2つの繭形輝点が平行にペアを形成することを見出した。繭形パターンは、ペンタセン分子の長手方向がCNT表面に垂直に立った状態で吸着し、先端のベンゼン環の最低空軌道(LUMO)の空間分布を反映していると推測される。 2.電子線の干渉実験装置の製作と干渉実験:電子バイプリズムを作製し,現有のFEMに取り付け,CNTからの放出電子の干渉実験を行なった。中央電極には,銀被覆された白金極細線(ウォラストン線)を用いた。今年度は,銀皮膜の除去までには至らず,銀被覆のままのウォラストン線(外径69μm)を中央電極として予備的実験を行なった。加速電圧700Vで,中央電極10-50Vにおいて,CNTから電界放出された電子をこのバイプリズムで重畳させたが,干渉縞は観察されなかった。干渉縞の観察には,中央電極を極限まで細くすることに加えて,加速電圧および中央電極の電圧を下げ,さらに電界放出像の拡大率を上げる必要のあることが分かった。 3.低速電子投影型顕微鏡の改良と性能評価:マイクログリッドの観察では,およそ5000倍の投影像を撮影することが出来たが,膜穴の縁での電子の屈折により,細い架橋部分では電子の回り込みが顕著に観察された。単層グラフェンおよび単層CNTの観察も行なった。
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