研究課題/領域番号 |
18H01885
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大江 武彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30443170)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量子ホール効果 / 直流抵抗標準 / GaAs/AlGaAs / 二次元電子系 / 微小電流 / 高抵抗精密測定 / 量子メトロロジートライアングル / 量子ホールアレー素子 |
研究実績の概要 |
直流抵抗の一次標準に用いられる量子ホール素子を直並列に接続することにより任意の量子化抵抗値を得ることが可能である。多数の量子ホール素子を組み合わせることにより、高抵抗の量子化抵抗値を実現し、微小電流の測定不確かさを低減することが本研究の目的である。しかしながら量子ホール素子を相互に接続する際の配線の抵抗や、量子ホール素子の不完全さに起因する量子化抵抗値のずれなどが組み合わせ後の抵抗値に含まれるため、高抵抗の量子化抵抗値の実現は容易ではない。 これまでの研究で、望ましいコンタクト抵抗を備えた量子ホール素子を高い歩留まりで作製するための条件を概ね得た。本研究において、量子ホール素子を直列に775個接続し、公称値がほぼ10 MΩとなる量子ホールアレー素子の他、1 MΩ素子や、10個ホールバーを直列に接続した129 kΩ素子などを作製した。本年度は極低温電流比較器ブリッジを用いてそれらの素子精密評価を行い、129 kΩ素子や1 MΩ素子が8桁の精度でその設計値に一致する量子化抵抗値を示すことを確認した。1 MΩの素子に関しては、量子化抵抗値の磁場依存性を評価し、約8.4 Tから10.4 Tの範囲で、量子化抵抗値が設計値に30 ppb未満で一致することを確認し、広い磁場範囲で利用な素子であることを確認した。10 MΩの素子に関しても0.5 ppm程度で設計値と測定値とが一致することを確認した。また、極低温強磁場下で個々の量子ホール素子の評価を可能にするために、ピエゾデバイスを用いたプローブを設計し、その動作確認を簡易的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
129 kΩや1 MΩの素子に関して極低温電流比較器ブリッジを用いてその評価を行い、8桁のオーダーで量子化抵抗値がその設計値に一致することを確認した。しかしながら129 kΩの素子に関して数日間極低温下に置かれたことで量子化抵抗値のずれを示すものが確認された。微小電流の測定には電流レンジによっては数日間以上積算測定を行う必要があると考えられるため、少なくとも1週間は量子化抵抗値が安定である必要がある。これは恐らくウェハ結晶内の欠陥に起因するものと考えられ、すべての素子が同じウェハを用いて作製されているため、すべての素子が同様な特性を有する可能性もある。 また、10 MΩの素子に関しては0.5 ppm程度の量子化抵抗値のずれが確認された。これは満足の行く結果ではなく、これを0.1 ppm未満に低減する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
量子化抵抗値の経時変化に関しては、さらに多くの素子を評価し、赤外線LEDで赤外線パルスを照射することで性能が戻るか確認するとともに新しい冷凍機プローブへの実装を行う。10 MΩ素子の量子化抵抗値のずれに関しては、個々のホール素子のサイズと歩留まりの再確認を行うと共に、素子のパターニングについて改良を行う。フォトレジスト内のパーティクルによって配線パターンが切れたり短絡したために大きい誤差を示した素子もあったため、可能な限りそれらゴミによってクリティカルな問題が発生しないような配線パターンへ変更することなども視野に入れる。
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