直流抵抗の一次標準に用いられる量子ホール素子を直並列に接続することにより任意の量子化抵抗値を得ることが可能である。多数の量子ホール素子を組み合わせることにより、高抵抗の量子化抵抗値を実現し、微小電流の測定不確かさを低減することが本研究の目的である。しかしながら量子ホール素子を相互に接続する際の配線の抵抗や、量子ホール素子の不完全さに起因する量子化抵抗値のずれなどが組み合わせ後の抵抗値に含まれるため、高抵抗の量子化抵抗値の実現は容易ではない。これまでの研究で、望ましいコンタクト抵抗を備えた量子ホール素子を高い歩留まりで作製するための条件を概ね得た。 本研究において、量子ホール素子を直列に775個接続し、公称値がほぼ10 MΩとなる量子ホールアレー素子の他、1 MΩ素子や、10個ホールバーを直列に接続した129 kΩ素子などを作製した。本年度は極低温電流比較器ブリッジを用いてそれらの素子精密評価を行い、129 kΩ素子や1 MΩ素子が8桁の精度でその設計値に一致する量子化抵抗値を示すことを確認した。1 MΩの素子に関しては、量子化抵抗値の磁場依存性を評価し、約8.4 Tから10.4 Tの範囲で、量子化抵抗値が設計値に30 nΩ/Ω未満で一致することを確認し、広い磁場範囲で利用な素子であることを確認した。これらの結果について、精密電気計測の国際会議であるCPEM2020(オンライン会議)にて口頭発表をした。また、10 MΩの素子に関しても0.5 ppm程度で設計値と測定値とが一致することを確認した。さらに、極低温強磁場下で個々の量子ホール素子の評価を可能にするために、ピエゾデバイスを用いたプローブを設計し、その動作確認を簡易的に行った。
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