本研究では、絶縁性SiC基板上ウェハースケールグラフェンの移動度を向上させるため、その要因を特定して改善を目指す。具体的にその要因は、グラフェンそのもの、SiC基板、グラフェン/基板界面のいずれかあるいは複数に存在すると考えた。 本年度はまず、界面構造改質として、最も移動度向上が期待される高圧水素インターカレーションとインターカレーションメカニズムの解明を行った。その結果、水素はテラス上のバッファー層を透過して界面に侵入すること、テラス内の界面を容易に拡散できる一方で、ステップをまたいだ拡散は困難であることがわかった。明らかになったメカニズムも考慮することで、圧力と温度に関して水素インターカレーション処理条件の最適化を行った。その結果、これまでに我々が作製した試料としては最も高い室温移動度を持つ試料を得ることができた。また、SiC上グラフェンを様々な基板上に転写することで移動度の比較を行ったところ、顕著な違いは見られなかった。一方、真空中とアルゴン雰囲気中で作製したグラフェンでは、前者のほうが移動度が低い。その原因を明らかにするために、二次イオン質量分析法による深さ方向の分析を行った。その結果、真空中で作製したグラフェンの方が、SiC表面付近におけるSi欠損が多いことがわかった。これは、Si欠損がグラフェン移動度に影響を与えていることを示唆している。以上の結果から、グラフェンの移動度を低下させる原因として、グラフェン/SiC界面構造とSiC基板表面付近の欠陥が大きな寄与を持つことがわかった。これらの成果について、応用物理学会などでの発表を行うとともに、論文を執筆中である。
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