研究実績の概要 |
高移動度InNチャネルの低温成長技術の確立に資する、高密度ラジカル照射下におけるInNおよび高In組成InGaNの初期成長機構の解明を目的に、ラジカル照射下での結晶成長その場観察手法の構築とそれを用いた表面反応解析を継続して取り組んだ。ラジカル照射には申請者らが開発した高密度ラジカル源(HDRS)を用い、従来の誘導結合型プラズマ源(ICP)と比較して10倍以上高密度な窒素・水素ラジカル照射下での特異な結晶成長の初期過程を調査した。ラジカル照射表面の観察には、角度分解X線光電子分光法(ARXPS)での表面組成の深さ方向解析や、走査トンネル顕微鏡(STM)などを行った。更に最終年度であることから、これまでの知見を基盤として、高In組成InGaNの成長を実施した。HDRSを用いて生成した従来の一般的なICPと比較して10倍以上高密度な窒素ラジカルの照射下において、比較的高い成長温度である447~590℃でInGaNを成長した。その結果、これらの高温領域でIn組成40~42%の高In組成InGaNの成長を実現した。またX線ロッキングカーブ測定において、成長温度447℃、521℃および554℃の場合のInGaN(0002)面の半値全幅(FWHM)は3,610、2,372および2,055 arcsecであり、成長温度が高いほどモザイシティが減少する傾向が得られた。すなわち、HDRSを用いて生成した高密度な窒素ラジカルの照射によってInNの分解・脱離が抑制され、高温成長とそれによる結晶性の向上が実現可能であることが明らかとなった。これらの結果は分子線エピタキシー法(MBE)によるInGaN成長の結果であるが、化学気相堆積法(CVD)やパルスレーザー堆積法(PLD)など多様な成膜手法においても、高密度窒素ラジカルの照射が有用であることを示唆すると考えられる。
|