研究課題/領域番号 |
18H01892
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
赤松 寛文 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10776537)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反強誘電体 / 第一原理計算 / セラミックス / 結晶化学 / 層状ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
反強誘電体に電場を印加すると、反並行に整列していた電気双極子が同じ向きに揃う。この特徴的な挙動を活かして、パワーデバイスや電気エネルギー貯蔵材料への応用が期待されている。こうした応用には、用途毎に特性をチューニングする必要があるが、現状ではそれが可能な反強誘電体の設計指針が確立されているとは言えない。 本研究では、層状ペロブスカイト酸化物の化学組成のバリエーションの豊富さと、層状構造の本質ともいえる層間のデカップリングに着目し、高いチューナビリティを実現する新規反強誘電体を開拓することを目的とする。第一原理計算によるスクリーニングを行った後、候補物質の合成・構造解析・誘電特性評価を行い、反強誘電性および相転移温度・電場の組成依存性を実験的に評価する。その結果を結晶化学的に理解することにより、自在な特性チューニングの指針を確立するとともに、層状物質における構造物性相関の学理の構築に繋げる。 本年度はまず、Ruddlesden-Popper型層状ペロブスカイト酸化物A2A’B2O7を基点として、第一原理計算を用いて反強誘電性物質候補をスクリーニングした。Aサイトにはアルカリのような1価のカチオン、A’サイトには希土類のような2価のカチオン、BサイトにはNbやTaなどの5価のカチオンを導入した。第一原理格子動力学計算により、Li2CaTa2O7では反極性構造が基底状態であり、極性構造がエネルギーの近い準安定状態であることがわかった。 その結果を踏まえて、Li2CaxSr1-xTa2O7固溶体の合成、放射光X線回折に基づく構造解析、誘電率の温度依存性や分極-電場曲線測定による誘電特性評価を行った。反極性相-常誘電相の相転移温度を室温から600℃の範囲でチューニングできることを確認した。しかしながら、電気分極-電場測定において反極性-極性スイッチングを観察することはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算を用いて、Ruddlesden-Popper型層状ペロブスカイト酸化物Li2CaTa2O7の最安定構造を探索した。まずは八面体回転をもたない母構造モデル(空間群:I4/mmm)を作成し、その格子定数および原子位置を十分に緩和させた後、フォノン周波数を計算し、虚数振動数をもつ不安定モードを追跡していくことで安定構造を探索した。その結果、反極性構造と極性構造の全エネルギーが計算誤差の範囲内で一致することがわかった。このことは、これらの物質が反強誘電体になりうる可能性を示唆する。 続いて、Li2CaxSr1-xTa2O7固溶体の合成、構造解析、誘電特性評価を行った。固相反応法により単相の試料を得ることができた。次に、放射光X線回折測定を行い、リートベルト法を用いて精密構造解析を行った。その結果、Li2CaTa2O7は室温において、反極性構造(空間群: Pnma)あるいは常誘電構造(空間群: Cmcm)をもつことが実証された。これは第一原理計算により予測された構造であり、この結果から第一原理格子動力学計算により確度良く、安定構造が予測されたことが示唆された。電気分極-電場測定において、Li2CaxSr1-xTa2O7の反極性-極性スイッチングを観察することはできなかったが、A’サイトカチオンCaとSrの割合を変化させることにより、反極性相-常誘電相の相転移温度を室温から600℃の範囲でチューニングできることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
反極性-極性スイッチングを起こすにはより高い電場をかけるか、電界応答が強くなるような組成チューニングが必要である。今後はまず第一原理計算を用いて、LiCaTa2O7における反極性-極性スイッチングパスを調査する。第一原理計算により予測されている極性構造と反極性構造の間の中間構造を検討し、スイッチングパスのパターンを列挙し、そのスイッチングのエネルギー障壁をNEB法により計算する。そのエネルギー障壁が、A’サイトカチオンやBサイトカチオンに対してどのように依存するかを調べ、反極性-極性スイッチングのエネルギー障壁が低くなる組成を検討する。 次に、反強誘電性物質の合成、構造解析、誘電特性評価を行う。組成の最適化された反強誘電性物質候補を、固相反応法、錯体重合法またはイオン交換法などを用いて合成する。より高い電場を印加できるように、助剤を加えることにより、絶縁性あるいは焼結密度を上げる。次に、放射光X線・中性子線回折測定を行い、リートベルト法を用いて精密構造解析を行う。また、光第二高調波測定により中心対称性の有無を調べ、構造解析結果との整合性を確認する。また、P-E測定や誘電率測定により反強誘電性を検証する。
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