研究課題/領域番号 |
18H01895
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
伊藤 輝将 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 特任講師 (60783371)
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研究分担者 |
川岸 将彦 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60323606)
三沢 和彦 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80251396)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コヒーレントラマン散乱 / 誘導ラマン散乱 / 小分子 / 吸入麻酔薬 / スペクトルフォーカス |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究の基盤技術となる新規誘導ラマン散乱検出法の開発、分子濃度測定系の構築を行った。数mMの分子濃度計測を実現するため、2つのプローブ光に強い非線形チャープを同量与え、生成される2つの非対称時間パルスで誘導ラマン散乱を検出する新手法「非対称スペクトルフォーカス検出法」を開発した。これにより、各分子振動モードを分離できる波数分解能(25cm^-1)に保ちながら、背景光を検出限界レベル(強度変調度10^-7以下)まで抑えることに成功した。実際にモデル薬剤分子(吸入麻酔薬のセボフルラン)を脂肪酸に溶かし、薬剤の信号と脂肪酸のバックグラウンドの比から分子検出性能を評価したところ、検出可能な限界濃度は約4mMと見積られた。以上から、装置性能としての到達目標は達成できたといえる。 さらにこの顕微鏡を用いて、気相から液相への気体分子輸送を見るためのモデル実験系を開発した。具体的には、水に溶けた吸入麻酔薬の小分子が水溶液から脂肪細胞中の脂肪滴に輸送され、局在していく様子をタイムラプス撮影することに初めて成功した。また、脂溶性の匂い分子(サリチル酸メチル)についても、同様に脂肪組織に高濃度で局在することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光パルスの整形技術を駆使した新たな分子検出法に基づく非染色レーザ顕微鏡を開発し、当初の到達目標となる装置性能(検出限界濃度:数mM)を達成した。実証実験においても、モデルとなる揮発性気体分子が水を介して細胞内への輸送される様子を捉えることに成功しており、ほぼ想定通りに進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降は、開発した非染色レーザ顕微鏡の高い分子検出性能を活用したモデル実験系を確立することに注力する。想定するモデル実験は以下の通りである。 ・気体中の分子濃度、あるいは水溶液中の分子濃度を制御したときの細胞内分子濃度の時間変化をリアルタイムに追跡する ・気道上皮組織モデルを用いて、気体分子が粘液層およびその下部組織に取り込まれる様子を観測する ・酵素を含む水溶液に溶けたモデル匂い分子の代謝過程で生じた代謝物を定量測定する これらの実験を推進するにあたり、揮発性の高い生理活性分子が溶けた水溶液を光透過性の良いガラス容器中に封止、灌流させた状態で細胞を撮像できる実験系を構築する。また、顕微鏡装置についても、低濃度の小分子の空間分布を取得することに加え、組織の形態情報を感度良く取得するための改良が必要である。
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