研究課題/領域番号 |
18H01900
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
香月 浩之 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10390642)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポラリトン / 超高速分光 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
本研究では有機半導体薄膜を活性層とした分布反射型(DBR)マイクロキャビティをマグネトロンスパッタと熱蒸着装置を利用して作成した。昨年度においてポラリトン凝縮の観測に成功したため、今年度はフェムト秒レーザーを用いたポンププローブ実験系の構築とその性能確認などを主に行った。UVポンプ白色光プローブの光学実験系を立ち上げ、試料としてキャビティ状態では無いTPCO(チオフェンフェニレンコオリゴマー)の薄膜試料を用いて、電子励起後の過渡吸収計測を行った。励起状態からの過渡吸収スペクトルが観測され、解析結果から時定数の異なる二つの緩和過程が生じていることが明らかになった。今後、閾値以上の励起強度において、ポラリトン凝縮が達成できるマイクロキャビティ試料を用いて、同様のフェムト秒ポンププローブ実験を行い、キャビティの有無によって生じる緩和過程の変化と、ポラリトン凝縮状態の時空間コヒーレンスについて評価を行う。 また、試料の作成がより容易なブロッホ表面波(BSW)と有機半導体薄膜中の励起子が結合したBSWポラリトン状態について、転送行列を用いたシミュレーションを行い、表面電場の局在性および有機薄膜の厚さとラビ分裂パラメータの間の関係性を明らかにし、今後のBSWポラリトン型サンプル製作の指針が得られた(論文投稿中)。 固体におけるコヒーレント制御手法開発のため並行して行っているダブルパルス励起による有機半導体単結晶のTHzフォノンモード選択実験では、従来の反射率計測系から電流計測系への改造を行った。バイアス電圧をかけて、512nmのダブルパルスポンプ光にて電子励起を行うことで、ルブレン単結晶の光励起電流を観測することに成功した。さらに量子科学技術研究開発機構との共同研究において、UVポンプTHz光プローブによる有機薄膜のキャリアダイナミクス計測実験にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度にポラリトン凝縮状態の観測に成功し、今年度にはフェムト秒ポンププローブ実験系の構築がほぼ完了した。ポンププローブ測定系のS/Nがなかなか改善しなかったが、白色光発生部分の空気ゆらぎをなくし、吸収スペクトルと同時に参照スペクトルを計測して強度ゆらぎの影響を相殺することで、今後の実験に十分なS/N比を確保することができた。白色光のチャープによる遅延時間の波長依存性は、石英板による光カー効果測定データを用いることで補正できた。実験系評価のためにTPCO(チオフェンフェニレンコオリゴマー)を対象として、過渡吸収測定を行い励起状態の緩和時定数を評価することに成功した。最終年度において、ポラリトン凝縮を示す試料を用いてポラリトンの超高速ダイナミクスの観測と制御を目指せる段階である。また、試料作成がより簡単なブロッホ表面波(BSW)ポラリトン状態について、転送行列シミュレーションによって角度分解反射スペクトルの評価を行い、BSW状態を保持するキャビティミラーの誘電体膜構造や活性層の厚さとラビ分裂パラメータの間の関係について一連の計算を行い、今後観測に適したラビ分裂の大きなサンプルを作成するための指針を得ることができた。 コヒーレント制御実験準備のための有機半導体結晶のフォノンを対象としたダブルパルス励起実験系では、従来のポンププローブ法による反射率変化計測を用いたマルチモード振幅制御実験から、電子励起状態におけるコヒーレントフォノンの励起が電子物性(移動度)にどのような影響を与えるかをより直接的に評価できる、電流計測手法の導入を行なった。現在、室温環境下でダブルパルス遅延時間を変化させて電流を計測する実験が可能となったところであり、今後液体窒素温度での実験を進める。
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今後の研究の推進方策 |
ポラリトン凝縮を示す試料の作成を行い、ポンププローブ測定を行う。活性媒質としてTDAFを用いた場合、415nm周辺の波長でポラリトン凝縮状態からのコヒーレント発光が観測されている。このため、プローブ光として同じ415nmを選ぶことで、シードとしての役割を果たすことが可能かどうか、確かめる。OPAが1台しかないため、シグナル光とアイドラー光を分割してそれぞれのSHGを2度取ることで415nm,385nmの光源を準備し、プローブ光の透過もしくは反射を分光器によって計測する。必要に応じてポンプ光の入射角を変化させる。波長と入射角をうまく調整することで、ポンプ光によって励起されたポラリトンが誘導散乱によって効率よくエネルギーが底の状態に溜まる現象が引き起こせるかどうかを探索する。 この測定とは独立に、凝縮状態からの放射光のコヒーレンス評価も行う。すでに開発したマイケルソン型干渉計を用いて放射光をダブルパルスにして重ね合わせをイメージ計測することで、空間コヒーレンスと時間コヒーレンスの計測を行う。光源の波長変換に困難がある場合には、400nmで励起可能で可視領域でのレーザー発振を観測できるBP1T-CN, BP2T-CNの試料を用いる予定である。 ブロッホ表面波ポラリトンについては、シミュレーションの結果に基づき実際のサンプル作成を行い、反射率の分散評価からポラリトンが生成できているかどうかを評価する。 有機半導体のフォノン選択励起電流計測実験については液体窒素温度での測定を行い、フォノン励起と電子移動度の関連性について測定を試みる。現在室温での測定では依存性が見られていないが、フォノンの影響が熱雑音に埋もれていると予測されるため、低温環境下では、コヒーレントフォントの反射率変化による観測と同様、測定が可能になると予測している。電流計測をポラリトンの評価に結びつける方法についても調査する。
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