研究課題/領域番号 |
18H01904
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安藤 潤 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (40623369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / 1分子イメージング / タンパク質 |
研究実績の概要 |
金、銀ナノ粒子をプローブに用いた、マルチカラー高速暗視野顕微鏡の開発を行った。金属ナノ粒子は、互いが近接するとプラズモン共鳴波長が長波長側にシフトし、近接距離が短くなるほどシフト量が増大する。これを利用し、粒子対の距離をマイクロ秒オーダーの高速、かつ精密に計測する装置開発に取り組んだ。この実現のため、個々の粒子と粒子対の共鳴波長に合致した光源を選定し、散乱像を波長毎に同時取得する、全反射型のマルチカラー暗視野顕微鏡を設計、構築した。検出光学系にスリットを開いた分光器を配置することで、回折格子により散乱光を波長毎に分離し、2次元検出器の異なる部位に各波長の散乱像を結像した。高速CMOSカメラを接続し、マイクロ秒オーダーの時間分解能を達成した。開発装置は、チャネル数を容易に増加できるため、金・銀の中間に共鳴波長を有する金銀アロイナノ粒子も用い、共鳴波長シフトと併せて4チャネルの多色観察を実現した。直径30~40nmの金属ナノ粒子を用い、電子顕微鏡による詳細な粒径計測も行なった。顕微鏡システムのドリフトや照明光の波長安定性、チャネル間のクロストーク等について検証・最適化し、時間分解能1ミリ秒で0.6nm, 100マイクロ秒で2.2nmの高い位置決定精度を達成した。生体分子観察のため、粒子表面修飾法を粒子毎に最適化した。人工生体膜を形成し、表面修飾した各粒子と特定の脂質分子を結合させ、プローブ近接時の挙動を観察した。時間分解能100マイクロ秒で計測を行うと、粒子対の近接に伴って長波長側のチャネルの散乱光強度が増大する様子を捉えることに成功した。また、タンパク質試料として、様々なドメインに修飾部位を導入したモータータンパク質キネシンの試料調整を行い、計測の初期検討を行なうとともに、同じくモータータンパク質であるダイニンの金ナノ粒子による高速1分子イメージングにも取り組むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、金属ナノ粒子対の近接を高速で捉える、マルチカラー暗視野イメージング法の開発を進めることができたことから、おおむね順調に進展していると判断した。計画のとおり、粒子の近接に伴う共鳴波長シフトに高速に追従し、粒子間距離にしたがって粒子対の散乱強度が増大する様子を100マイクロ秒の高い時間分解で捉えられることを実証できた。複数のレーザー光源で試料を同時に全反射照明し、かつ得られた散乱像を分光器を用いて波長毎に分離・識別する新たな全反射型マルチカラー暗視野顕微鏡を設計・構築できた。高い位置決定精度で計測を行うため、開発手法の精度向上の妨げとなる、レーザーの発振波長の揺らぎや、装置のドリフト、レーザー光の空間的な揺らぎなど、複数の要素を一つずつ、丁寧に検証・最適化することで、ナノスケールの位置決定精度、100マイクロ秒の時間分解能、かつ4チャネルのマルチカラー高速高精度イメージング装置を実現した。プローブの金属種毎の粒径や散乱強度についても詳細に検討し、種々の条件検討に基づき、開発装置を用いることで、粒子対の近接に伴う長波長側のチャネルの散乱光強度の増大を捉えることに成功した。全体として、計画どおりに順調に研究を推進できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、マルチカラー暗視野顕微鏡による生体分子の高速・高精度・多色イメージング、及び得られた分子追跡画像のデータ解析を計画している。金、銀、及び金銀アロイナノ粒子は、各粒子のプラズモン共鳴波長によって散乱スペクトルのピーク位置が異なる。それぞれのピーク波長に合致したレーザー光源を有するマルチカラーイメージング装置によって、同一視野内で、互いを見分けながらイメージングを行う。金属ナノ粒子の高い散乱能を生かし、多色、かつマイクロ秒オーダーの時間分解能とナノスケールの位置決定精度を有する、タンパク質の複数同時イメージングを行う。得られたマルチカラーイメージング画像を解析し、タンパク質の挙動を詳細に捉える。さらに、開発手法の広範な応用に向けて、プローブとなる金属ナノ粒子の修飾法や微小化などにも取り組む。上記の研究開発を推進し、金属ナノ粒子によるタンパク質の高速高精度イメージング研究を推進する。
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