研究課題/領域番号 |
18H01909
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
鎌田 康寛 岩手大学, 理工学部, 教授 (00294025)
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研究分担者 |
小林 悟 岩手大学, 理工学部, 教授 (30396410)
村上 武 岩手大学, 理工学部, 技術専門職員 (60466513)
渡辺 英雄 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (90212323)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 照射損傷 / 磁気特性 / 遷移金属 / エピタキシャル |
研究実績の概要 |
本研究では照射環境下で利用される機器構造物の照射損傷現象を念頭に置き、種々の鉄基3d遷移金属合金の構造および磁気特性に与える照射効果を高効率・高精度に調べるコンビナトリアル型の研究手法を提案している。それらのデータを収集して、照射効果のメカニズムを解明することを目的としている。初年度は、試料作製装置の改造・強化に重点的に取り組み、Fe-Ni系合金の組成を系統的に変えたエピタキシャル膜を作成し、室温で重イオン照射して構造と磁気特性を調べた。その結果、成膜後の高温熱処理の有無で照射影響に違いがあることを見出した。エピタキシャル膜の初期状態の違いの把握が照射効果を考える上で重要であることから、本年度は成膜条件を変化させ初期状態を変えた試料の作製を主にFe-Cr-Ni3元合金に対して行い、その構造と磁気特性に与えるイオン照射効果を調べた。 Fe-25Cr-8Ni合金について、Cuバッファー層の有無、高温熱処理の有無で成膜条件を変えたところ、同じ合金組成でも結晶構造と配向組織の異なる3元合金薄膜を作成することができた。それらを室温で重イオン照射した結果、fcc構造を含む薄膜試料において、照射による構造変態と飽和磁化の増加を確認した。それらを考察した結果、Fe-Cr-Ni系の3d遷移金属合金のイオン照射による磁化の増加メカニズムとして、fcc構造の電子状態が変化して増加する場合と、bcc構造へ変態することで磁化が増加する場合の2つの機構があると考えている。それらの研究成果のほかに、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶構造のGaイオン照射効果について詳しく検討し、照射による構造変態の方位関係が照射結晶面により異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe-Ni合金薄膜に加えて、Fe-Cr-Ni合金薄膜の成膜と照射実験を新たに実施した。初期状態の違いに注意するための工夫として、RHEEDパターン解析装置を新たに開発した。Fe-NiおよびFe-Cr-Ni合金薄膜の成膜中のRHEED強度振動を確認できるようになり、バッファー層の成膜条件の最適化が可能となった。それらの工夫の結果、良質なCuバッファー層に成長させたFe-25Cr-8Ni合金と、MgO(001)単結晶基板上に直接成長させ、さらに高温熱処理して作製したFe-25Cr-8Ni合金とを準備し、重イオン照射前後での結晶構造と磁気特性変化を調べた。その結果、Fe-Cr-Ni合金では、fcc構造の場合に照射により磁性が大きく変化することを見出した。この観点に着目してさらに研究を進めることで、3d遷移金属合金の結晶構造および磁性に与える照射効果の機構解明につながると考えている。またFe-Cr-Niバルク材のGaイオン照射実験の研究も並行して進めており、結晶面による変態後の方位関係の違いを新たに見出している。以上より、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
鉄系3d遷移金属合金薄膜において、初期状態の違いの把握が照射効果を考える上で重要である。そのことを踏まえ、研究分担者を1名増やして試料作製と構造評価を強化する。また、開発したRHEED解析装置を効果的に使用するなどして、試料の作製条件の最適化をさらに進める。その上で、良質な合金薄膜を系統的に作製することで、構造と磁気特性に与える照射効果を解明するための研究を加速させる。
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