研究課題/領域番号 |
18H01910
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 講師 (30415880)
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研究分担者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原子力 / 放射性廃棄物 / バックエンド / 処分システム / 核種閉じ込め / ケイ酸 / コロイド / 析出 |
研究実績の概要 |
本研究は,セメント系材料由来の高アルカリプルームにより核種閉じ込め性能が劣化する天然バリア(地下岩盤)が,ケイ酸の空間的な再分配に伴う間隙閉塞によって自己修復する機能の発現に着目している.研究開始の今年度は,ケイ酸の析出メカニズム解明に関する実験検討のための実験系や諸条件設定,析出速度評価手法を確認した.とくに,地下環境に遍在する代表的な熱水変質鉱物である緑泥石および絹雲母の粉末試料を用いた過飽和ケイ酸の析出実験を試行した.実験では,高pHかつ高濃度のケイ酸溶液のpHを8程度に下げることにより過飽和状態を調整し,各鉱物へのケイ酸析出挙動を観察した.ケイ酸の定量においては,今年度に新たに導入した分光光度計を活用し,単量体や二量体が主である水溶性ケイ酸と高分子のコロイド状ケイ酸を分別して定量し,各々の析出挙動を調べた.その結果,いずれの鉱物においても経時的に水溶性ケイ酸が減少し,ケイ酸析出量が増加した.そして,ケイ酸析出量は添加した鉱物粉末試料の重量,すなわち固相表面積に依存することが明らかになった.また,同時にコロイド状ケイ酸の生成が確認されたものの,固相表面積が大きいほど生成量は減少した.このことは,固相割合が非常に大きい実環境ではコロイド状ケイ酸の生成は制限され,過飽和ケイ酸のほとんどが固相に析出することを示唆する.これらの実験より求めた過飽和ケイ酸の析出速度定数は10E-11~10E-10 m/s程度と見積もられた.既往研究において申請者は,アモルファスシリカ粉末を用いた析出速度定数評価を行い,本研究と同程度のオーダーの値を取得するとともに,試解析により亀裂流路がケイ酸析出によって狭隘化する可能性を示している.これらより,本研究で想定したような,流路表面が緑泥石や絹雲母に覆われる場合にも,過飽和ケイ酸の析出によって微細流路が狭まり,核種移行が抑制される効果が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に実施した,熱水変質鉱物を用いた過飽和ケイ酸の析出挙動に関する実験検討は,年度当初の研究実施計画に沿ったものであり,予定した進捗が得られていると言える.研究開始にあたり,過飽和ケイ酸の析出に係る実験系を整備するとともに,熱水変質鉱物である緑泥石や絹雲母に対するケイ酸の析出挙動観察に適した実験条件を設定することができており,次年度以降の実験検討の円滑な推進に大いに資する.また,実験データに基づく析出速度評価も達成しており,その結果として緑泥石や絹雲母への過飽和ケイ酸の析出が固相表面積に依存することや,析出速度定数が固相にアモルファスシリカを用いた場合と同程度であることを明らかにしたのは大きな成果である.加えて,2018年度に導入した分光光度計を用いた水溶性ケイ酸の比色定量手法により,過飽和ケイ酸の析出実験において想定される水溶性ケイ酸,コロイド状ケイ酸,析出したケイ酸の三種類を分別して定量することが可能となり,次年度以降においてもケイ酸析出挙動のより精緻な把握に大いに役立つものである. 以上のように当初計画に沿って本研究を進められていることから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,地下環境におけるケイ酸の再分配による天然バリアの自己修復機能発現を示すために,以下の検討事項を実施する.次年度は主に実験検討を継続し,2018年度に確認された実験系や諸条件設定に基づき,過飽和ケイ酸の析出速度評価および析出メカニズム検討を進める. <検討事項(1):ケイ酸の析出メカニズム解明> 今年度に続き,緑泥石や絹雲母等の熱水変質鉱物を用いた過飽和ケイ酸の析出実験による析出速度定数評価を行う.今年度の検討において,析出速度定数を適切に評価できるような液固比やケイ酸濃度等の実験条件が確認されており,それらに基づいて実験検討を遂行する.加えて次年度以降は,ケイ酸析出反応に影響が大きいと推測される共存イオンについても検討を行う.申請者らの既往検討において,コロイド状ケイ酸の沈殿あるいは析出が,共存する陽イオンに大きく影響されることが明らかにされており,ケイ酸析出反応のメカニズムにも変化が生じると予想される.本研究では,地下水中に溶存する陽イオンとして,NaイオンやCaイオン,Mgイオン,Alイオンに着目し,これらが共存する際の過飽和ケイ酸の析出挙動について検討する.また,本研究の実験では,過飽和ケイ酸の析出と同時にコロイド状ケイ酸が生成することが今年度の検討において確認されており,水溶性ケイ酸(単量体,二量体程度)とコロイド状ケイ酸を分別して定量するモリブデンイエロー法を適用して析出挙動の把握を進める. <検討事項(2):ケイ酸の析出に伴う天然バリアの自己修復機能> 検討事項(1)の過飽和ケイ酸の析出実験により得られた析出速度定数を用いて間隙閉塞解析を行い,ケイ酸析出が天然バリアの自己修復に寄与することを示す.その予備的検討として,物質移動と化学反応の比を表すダムケラー数(Da)を指標に,地下環境におけるケイ酸の空間的な再分配に伴う間隙閉塞の可能性を探る.
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