研究課題/領域番号 |
18H01913
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 弘亨 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40343925)
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研究分担者 |
叶野 翔 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00742199)
楊 会龍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (10814254)
村上 健太 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50635000)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオン照射 / 水素 / 鉄鋼材料 / ジルコニウム合金 / 透過電子顕微鏡 / 超微小硬度 |
研究実績の概要 |
申請者らは照射その場観察法等により金属材料の強化因子であるナノ粒子の不安定化や過飽和溶質原子の析出など、新たな照射誘起型固相反応現象を見出してきた。これは、照射環境においてプラント構造材料の強度劣化につながる可能性があり、原子炉構造材料や原子燃料被覆管材料、核融合炉構造材料の健全性評価にとって重要な現象となり得る。 本研究では、鉄鋼およびZr合金中の材料強化因子に対する照射影響を組織-強度相関の視点で調査し、水素化の重畳効果を実験的に検出し、原子炉内と炉外における材料劣化を比較し、照射・水素化重畳影響を評価することとしている。 まず、その場観察実験による鉄鋼中の酸化物ナノ粒子の照射下挙動解明に資するためステレオ観察法を用いて三次元分布を取得する技術を開発した。鉄鋼中の酸化物微粒子は成長と収縮をランダムに繰り返し、長期的に収縮、消滅の途をたどる。このランダムなサイズ変化の過程が照射の初期に典型的な事象であることを見出し、結晶成長の古典論であるオストワルド成長理論を適用した検討を行い、nm程度のサイズや結晶性を考慮した修正が必要であることを指摘した。この現象には個々の微粒子の環境因子が影響するものと予測している。ステレオ観察法を用いた照射材観察実験は2021年度に実施する。 次に、Zr合金を対象として照射-水素重畳効果の測定を行った。水素約100ppm注入材では照射軟化が生じ、注入量の増加に伴い照射硬化が顕在化することを見出した。これは水素による転位運動の促進と照射欠陥による転位運動阻害によるものと考えられる。詳細調査のため、電気炉を用いた水素注入装置を開発した。実験中の酸化が顕著な問題を解決し、ガスボンベ内の残中水分の影響であることを突き止めた。当該装置による水素注入実験を今後実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 本プロジェクトでは、対象材料を酸化物分散強化鋼とジルコニウム合金としている。 照射による微細組織観察実験を主たる対象としているが、現在までに非水素注入材に対する情報は概ね整理でき、当初予定を上回った成果を得ている。一方、水素注入した材料に対する実験については、水素化装置を作製したが、実験中に試料の酸化が顕著でその問題解決に時間を要し、最終的に環境残留酸素またはガスボンベ内の残中水分の影響とみられることを突き止め、詳細実験は現在実施中である。水素化材に対する電子照射実験については当初2019年度実施として計画していたが北大の電子顕微鏡の故障とコロナ禍の影響で実験は進捗していない。イオン照射法に切り替えて実験を継続している。 以上、おおむね順調に結果を得ることができており、データの再現性の確認と水素化詳細実験を進めることとしている。
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今後の研究の推進方策 |
超高圧電子顕微鏡の共同利用再開が現時点で見込めないことから、照射実験についてはイオン照射実験に切り替えて進めることとしている。北大の超高圧電子顕微鏡の利用が再開され次第、水素注入材に対する電子照射その場観察実験を行う。 鉄鋼材料については、イオン照射材および水素-照射重畳材の断面組織観察による重畳効果の解明を目指すこととしている。ジルコニウム合金については、強度並びに析出物に対するイオン照射と水素重畳影響について実験を実施することとしている。
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