研究課題/領域番号 |
18H01924
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小池 克明 京都大学, 工学研究科, 教授 (80205294)
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研究分担者 |
柏谷 公希 京都大学, 工学研究科, 助教 (40447074)
後藤 忠徳 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90303685)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リモートセンシング / 衛星画像 / ダウンスケーリング / 地質マッピング / 資源探査 / 反射スペクトル / 短波長赤外域 / 空間分解能 |
研究実績の概要 |
本年度は,一般のマルチスペクトル衛星画像をその撮影範囲全体にわたって,①ハイパースペクトル画像に変換できる手法,②地質リモートセンシング分野で現在の最高水準の空間分解能まで画像を鮮明化できる手法の開発を進めた。以下,マルチスペクトル画像,ハイパースペクトル画像,マルチスペクトルの高分解能画像をそれぞれMS,HP,HSRと略し,各代表としてASTER,AVIRIS,WorldView-3(WV-3)を選んだ。 観測波長帯の高分解能化①に関しては,MSとHPバンドの反射率を多変量回帰式によって関連付け,最適なモデルをベイズ理論によって選択するという手法PHITAを適用した。正確な位置合わせを施したMSとHSRでは,MSの1ピクセルはHSRの複数のピクセルに対応する。画像1ピクセルのサイズを小さくするという②では,まず太陽照射方向などを考慮してMSとHSRのラジアンスを補正し,次にMSの1ピクセルのラジアンスはHSRの複数のラジアンスの和であると仮定して,その関係を汎用性の高い多変量回帰モデルで表した。 上記3種類の画像が利用可能であり,熱水変質帯として知られているアメリカ西部ネバダ州のキュープライトをトレーニングエリアとし,その付近にあり浅熱水鉱床域のゴールドフィールドを①・②のターゲットに選んだ。①ではASTER画像をAVIRIS画像と改良PHITAによってHPに変換し,それらの関係をゴールドフィールドでのASTER画像のHP化に用いた。その結果,ASTER画像よりも明礬石,カオリナイトなどの変質鉱物の識別精度が大幅に向上した。また,②に関してはASTERとWV-3で共通するSWIRの4つのバンドをダウンスケーリングに用いた。ASTER画像をWV-3画像の空間分解能まで向上させたところ,ASTER画像の空間分解能以上に明礬石などの分布域を詳細に推定することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の前期には,研究代表者らによる波長分解能の向上法であるPHITA(Pseudo-Hyperspectral Image Transformation Algorithm)の改良に取り組むことを計画した。PHITAではMS画像とHS画像の各バンドでの反射率の間に線形関係が成り立つと仮定し,通常の多変量回帰モデルを当てはめる。しかしながら,例えば1000 nmでの反射率を500 nmや2000 nmなど,離れた波長での反射率となぜ線形で組み合わせられるのか?という疑問は残り,精度が低いHSバンドも存在した。そこで,MSとHSの反射率の関連付けに,Generalized additive modelという汎用性の高い多変量回帰モデルを用い,反射スペクトルのパターンも考慮することで,MS画像の波長分解能と精度を従来よりも向上させることが可能になった。 後期には空間分解能向上法の開発を目指し,当初の予定通り,最高の空間分解能レベルをもつWV-3を用いた。波長が同じバンドで,低分解能画像での1つの反射率が,高解像度画像ではどれほどばらつくのかを地球統計学でのバリオグラムによって定量化することを予定した。しかしながら,検討の結果,バリオグラムよりも上記の実績概要のようにラジアンスを利用した方が精度と汎用性が高いことがわかったので,ラジアンスの分配に基づく新たな手法を開発した。短波長赤外域でのバンド数が多く,鉱物マッピングに有用なASTER画像に本手法を適用して有効性を確認できた。 以上より,当初計画の2項目に対して成果を上げられたので,研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の成果をさらに発展させるために,各画素に含まれる地表物質の種類と構成割合(面積)を特定できる手法の開発に取り組み,通常のマルチスペクトル画像をハイパースペクトル化・高解像度化し,さらにサブ画素情報を有するように変換することで,新規の衛星画像の創出を目指す。次年度は次の2項目に取り組む。 ①スペクトル分解法の開発:WV-3のような高解像度画像でも,1つの画素に1種類の地表物質のみが分布するのは稀であり,画素の反射スペクトルは複数の構成物質(端成分)の反射率を合成した結果となる。従来,合成スペクトルは,端成分の反射スペクトルの単純な加算で近似されてきた。これに対して,Al-OHなどの特有の化学成分による反射率の吸収をすべて抽出し,この吸収特徴と独立成分分析法を用いて合成スペクトルを分離することで,端成分の特定精度を向上させる。この手法をFSUM (Feature-based Spectral Unmixing)と称する。カオリナイト,明礬石,白雲母など,熱水鉱床域に存在する代表的な鉱物を種々の構成割合で混在させた試料を用意し,現有の分光反射計を用いて,FSUMの精度の検証実験も行う。 ②手法の有効性検証:上記のゴールドフィールドを対象とし,ASTER画像,AVIRIS画像,およびWV画像を用いる。現地調査による試料のXRD分析と反射スペクトル計測を実施し,鉱物組成分布を明らかにする。これらと本年度開発した波長・空間分解能ダウンスケーリング法による解析結果を併せて,ASTERから,WVと同じ空間分解能でAVIRISと同じ精度の鉱物分布マップを作成できるか?,AVIRISの撮影範囲外でもそのマップの精度は高いか?,FSUMによる端成分の構成割合は正確か?の3点を明らかにする。
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