研究課題/領域番号 |
18H01929
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研究機関 | 公益財団法人レーザー技術総合研究所 |
研究代表者 |
染川 智弘 公益財団法人レーザー技術総合研究所, レーザープロセス研究チーム, 上席研究員 (00508442)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リモートセンシング / ライダー / 海 |
研究実績の概要 |
日本の領海・排他的経済水域は国土面積に比べて12倍程度と広く、海底鉱物資源・メタンハイドレート掘削、CO2を海底地層に圧入して大規模削減を目指すCCS、石油などのエネルギー資源を輸送する海底パイプラインなどの有効な海底利用が実施・計画されている。海底開発では資源探査手法だけでなく海洋生態系・環境への影響評価が必要とされているが、現状の採取・採水測定では頻度とエリアに限度があり、海中での効率的なモニタリング手法の開発が必要である。そこで、海底を効率よくモニタリングするために、レーザーを用いたリモートセンシング技術であるライダーを利用した海中モニタリング技術を開発する。水中のガスや油などのラマン信号から3次元マッピング観測を行い、効率的な海中モニタリングを目指している。 現有の技術シーズである水中ガスラマンライダーの海中モニタリングへの適用可能性を検証するために、H30年度は水中ガスラマンライダーによる海上試験を実施し、システムの性能を評価した。R1年度は、従来の水中ガスラマンライダーの改良を進めるだけでなく、新たな発展として、海底パイプラインの油流出事故の遠隔検出を目指し、ラマン法を利用して長水槽の中に設置した油の遠隔計測試験を実施した。油試料は水中伝搬距離が2 mの位置に設置した。油を水中に設置した場合でも2910 cm-1のC-Hの対称伸縮モードを利用して油量の定量評価が可能であり、海底パイプラインの油流出事故への応用可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは、水中にあるガスをラマンライダーによって検出する海中モニタリング手法を開発していたが、R1年度は、新たな海中でのレーザーリモートセンシング応用として、海底パイプラインの油流出事故を遠隔から検出する手法を検討した。 油にレーザーを照射すると、油の構造に由来した特徴的なラマンスペクトルが得られるために、その信号を指標とした油の検出が期待できる。これまでのガス検出とは異なり、油に波長355 nmのレーザーを照射すると蛍光が生じたために、油の検出には波長532 nmのレーザーを用いた。油試料は、測定環境への流出を考慮して、環境にやさしい植物油であるキャノーラ油を利用した。 油試料は光路長が5、10、20 mmの4面が研磨面である蛍光セルに入れた。レーザーは蛍光セルに垂直に入試させ、観測視野中のレーザーと油の相互作用長を変化させることで、測定する油の量を変化させた。0.3×0.3×6 mの長水槽を用いて、油試料は水中伝搬距離が2 mの位置に設置した。 油は2910 cm-1に信号強度の大きなC-Hの対称伸縮モードを持つ。油を水中に設置した場合は、水のO-Hの対称伸縮モードが3400 cm-1に観測され、2910 cm-1の信号は水の裾に観測されるが、光路長に応じた油のラマン信号の検出に成功した。したがって、水中にある油に対しても本手法は適用可能であり、海底パイプラインの油流出事故への応用可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
R1年度は、長水槽を利用して、水中で2 m先にある油のラマンスペクトルの遠隔測定に成功した。R2年度では、油検出手法を改良するとともに、水深31 mの海にレーザーを照射することが可能な、オキシーテックIIを利用して、海上模擬試験を実施する予定である。 R1年度は、水中で2 m先にある油のラマンスペクトルの遠隔測定に成功した。R2年度はさらに油の位置情報の取得を目指して、CCDの時間ゲートを利用したスペクトル測定を実施する。ICCDカメラによる時間ゲート測定によって、水のラマン信号の抑制が期待でき、遠隔においても油のラマン測定が可能ではないかと考えている。また、光学フィルターを利用したライダー測定も実施する。油、水のそれぞれのラマン波長でのライダー信号を取得することで、より距離分解能が高い測定を実施する。 本手法による遠隔油検出の実現可能性を検討するために、オキシーテックIIにて海上模擬観測を実施する。可搬型の水中油遠隔検出システムを開発し、実験室で性能評価、動作確認を実施した後、海上模擬観測を実施する。油を入れた瓶を水深10, 20 mなどに設置し、海上から油のラマン信号を遠隔計測する。海上観測における本手法の問題点を抽出するだけでなく、レーザー出力と観測可能距離の関係などを評価し、本手法の実現可能性を評価する。
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