研究実績の概要 |
最終年度では, ランタノイド原子を含む金属有機構造体薄膜の作製条件の最適化およびその測定を行う計画で進めた。また、導入したDFT計算環境を様々な系で試し、最終的にTbPc2分子の吸着構造やスピン状態の同定を行う。しかし、新型コロナ感染拡大の影響で東大物性研への立ち入りが3ヶ月禁止され、実験を遅らせることになった。 有機金属構造体薄膜で用いる元素としてCe, Ce原子を繋ぐリンカー分子としてトリブロモベンゼン分子を選択した。当初の計画とは異なる分子であるが, バリアブルリークバルブにて真空中に分子を導入できる簡便さ、およびハニカム構造となる有機金属薄膜が得られるため、トポロジカルに非自明な電子状態が期待できると考えた。超伝導基板としてSi(111)表面上に蒸着させたPb薄膜を選択した。 まず最初のテスト実験として、トリブロモベンゼンが有するBr原子がPb表面にてウルマン反応を経由することで有機薄膜が得られるかを検証した。その結果、Pb上では全く有機薄膜が得られなかった。またウルマン反応を生じる基板としてよく用いられるAgやCuを試すため、Si(111)表面上のAg, Cu薄膜でも同様の実験を行なったが、こちらでも有機薄膜を得ることができなかった。ただしCu薄膜の場合、Cu2Siという化合物薄膜になっており、その超周期構造に沿った特徴的な吸着構造が得られ、今後DFT計算にてその吸着状態を明らかにしていく。 またDFT計算においても、FePc吸着系での計算が概ね問題なくできるようになり、報告書作成時点で共著者による原稿チェックの段階にある。超伝導In薄膜上のMnPc分子の系に関しても概ね計算がうまくいったため、論文化する計画である。その後、TbPc2分子の吸着状態の解明に移るが、こちらも遅れてしまっており、今後計算を進めていく計画である。
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