電解質水溶液と固体電極の界面においては,電気二重層と呼ばれるバルクとは異なるイオン分布や溶媒配向となる反応場が形成される。多くの電極反応では,反応物は電気二重層を通過し電極表面に吸着し反応が進行する。電極反応は電気二重層内の反応生成物の拡散や吸着・電子移動など複数の素過程からなるため,それぞれの素過程のダイナミクスの理解が重要となっている。本研究では,2種類の測定を用いて界面ダイナミクスを追跡してきた。1つはパルスレーザーを用いて,電極表面近傍を局所的に加熱し,その後の過渡構造を追跡した。2つ目はX線光子相関分光により平衡状態におけるダイナミクスを追跡した。 パルスレーザーを用いた実験では,昨年度までに電気化学測定および時分割X線回折測定を可能にした。2020年度は赤外分光による時分割計測を主に実施した。ステップスキャン法によりパルスレーザー照射後の過渡変化を追跡した。Si基板上にPtおよびAuを無電解メッキし,表面増強赤外分光を行なったところ,パルスレーザー加熱によるスペクトル変化は観測されたものの,メッキ膜へのダメージが大きくSN比の高いデータ取得ができなかった。そこで単結晶電極に適用するために赤外反射吸収分光に発展した。Pt(111)電極を用いて硫酸溶液中で時分割IR測定を行ったところ,レーザー照射後に1620 cm-1において吸着水のHOH変角振動の変化が観測された。 2つ目のX線光子相関分光については,Au(111)表面に吸着したヨウ化物イオンの吸着平衡のダイナミクスを観測した。追跡できたのは秒オーダーの遅い変化であるが,走査型トンネル顕微鏡で観測される欠陥サイトとの相関を明らかにした。
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