研究課題/領域番号 |
18H01936
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 一生 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50541942)
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研究分担者 |
町田 真一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 研究員 (30554373)
則竹 史哉 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (50755569)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 氷 / 高圧 / 中性子回折 / 積層不整 |
研究実績の概要 |
立方晶氷(ice Ic)は、通常の氷である六方晶氷(ice Ih)を除けば、地球圏内で唯一天然に産する氷であり、宇宙空間にも普遍的に存在する可能性の高い重要な氷 の多形の一つである。一方で、これまで合成されたice Icには全て例外なく積層不整があり、完全なice Icの存在は未だ確認されていない。本研究では、世界で 初めて積層不整のない完全なice Icを合成し、このice Icを基軸として新たな氷の物理化学を開拓することを目的とする。 2020年度は、これまで進めてきた積層不整のないice Icの中性子回折実験について詳細な解析の結果を原著論文としてまとめ、Nature Communications誌に掲載された。この成果は、Nature Communications誌のEditor's highlightに選出されたほか、Nature Materials誌のNews&Viewsでも紹介され(C.G. Salzmann & B.J. Murray, Nature Materials, 19, 581-589)、大きな注目を集めた。 さらに、2020年度は、新たな氷の多形となる氷XIXを発見した。氷XIXは水を室温で加圧すると最初に出現する水素無秩序相である氷VIの2つ目の秩序相であるが、一つの無秩序相に対して初めて複数の秩序相が発見された例となった。本成果は他の無秩序相にも同様に複数の秩序相の存在を示唆するものであり、今後の氷の物理化学研究に重要な意味を持つと思われる。この成果も、Nature Communications誌に掲載され、さらにEditor's highlightにも選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、積層不整のないice Icを基軸として、新たな氷の物理化学を展開することを目的としているが、高圧下での氷の物性を調べていく上で、偶然、ice XIXを発見することにも成功した。ice XIXは、単に新たな多形の一つであるというばかりでなく、ice VIの2つ目の秩序相であり、一つの無秩序相から複数の秩序相が出現しうることを示した初めての例となったという点で、物理化学的に大きな意味を持つ発見になった。このice XIXの発見を契機に、他の秩序相の探査も今後急速に進んでいくことが予想される。ice XIXの発見は、研究の計画段階では予期していなかった成果であり、かつ、今後の氷の物理化学に大きな影響を与えうる成果であるため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度発見したice XIXは、ice VIのみならず、他の無秩序相でも複数の秩序相の存在を示唆する。そこで、今年度はice VIや他の無秩序相について、低温高圧下でのX線回折・ラマンスペクトル・中性子回折等の各種測定を行い、新たな氷多形の探査を進める。また、昨年度に引き続き、積層不整のないice Icの物性の調査、特に水素ガスの再吸着実験や熱分析実験を進め、水素ハイドレートとice Icとの間の熱力学的な相関係を明らかにする。
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