1)水和クラスター生成装置の改良 これまで,水和クラスター生成装置にエレクトロスプレーで生成した全てのイオンを導入し,あらゆるイオンの水和クラスターを生成してから,後段の質量分析装置で目的の水和クラスターを取り出して分光測定に供していたが,このやり方だと,たまたま質量電荷比が同じイオン種が共存すると(コンタミネーション)それらを区別する術がなく,特に多量体水和クラスターで目的外のイオンが混入する問題が深刻であった。そこで,水和クラスター生成装置の前段に質量分析装置を新たに設置し,エレクトロスプレーで生成したイオンの中から目的のイオンのみを水和クラスター生成装置に導入する様に改良した。これにより,上記のコンタミネーションの問題は解決し,加えて,水和クラスター生成効率も向上した。
2)GYG-K+錯体およびGYG-Na+錯体に対する水和効果 カリウムイオンチャネルの選択フィルター部分ペプチドGYGがK+及びNa+に配位した錯体の構造が異なることが昨年度明らかになったが,これに水分子を付加するとどうなるかを明らかにした。Na+錯体の場合は,水和するとこれまで分布の少なかったO/O構造(GYGの2つのC=O基のO原子が金属イオンに配位した構造で,選択フィルターにK+が結合するときと同じ構造)が支配的になり,K+に近い挙動を示す様になることがわかった。しかし,K+の場合は同じO/O構造でも水分子がC=O基の酸素原子に水素結合を形成し,K+とGYGの距離が伸び,両者の相互作用が弱くなることがわかった。Na+錯体の場合はその様なことはなく,Na+とGYGの相互作用は強固なままであった。最近の理論計算によると,Na+がカリウムイオンチャネルに侵入する場合,必ず水分子を伴い,また透過速度が著しく遅くなることが示唆されているが,本研究の結果はそのことを強く支持している。
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