研究課題/領域番号 |
18H01942
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 一也 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30300718)
|
研究分担者 |
奥山 弘 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60312253)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 表面振動分光 / 和周波発生振動分光 |
研究実績の概要 |
本年度の主な成果は以下のとおり。 1)過渡加熱法による固液界面和周波発生振動分光の確立のため、超高真空下の金属表面に吸着した氷薄膜のOH伸縮振動領域の和周波発生振動スペクトルの膜厚依存性を詳細に調べた。ロジウム(111)単結晶表面に吸着した氷薄膜を1分子層から100分子層程度まで系統的に膜厚を変化させてヘテロダイン検出によるスペクトル測定を行ったところ、膜厚の減少に応じて、氷最表面構造の乱れが著しく増大する挙動が観測された。また、90 Kから140 Kまで基板温度を変化させ、振動スペクトルの温度依存性を計測したところ、10層以下の低い被覆率では、温度に依存した著しいスペクトル線幅の変化が起きることが見出された。また、1分子層吸着時のスペクトルは3100 cm-1付近にピークを有する負の符号をもつ虚部スペクトルを示し、金属に水素結合したOH基が、従来の定説とは異なり、バルク氷の水素結合と同程度のOH伸縮振動数を示すことを明らかにした。 2)和周波発生振動分光の信号取得高速化を目指し、検出手法をBalanced heterodyne方式に変更した光学系を構築し、前述の氷薄膜を用いて、原理検証実験を行った。その結果、新方式により信号取得時間の大幅な短縮が可能になった。 3)表面敏感高感度振動分光への応用を目的として、金属表面に吸着したアルカリ原子層のプラズモン巨大光学応答の起源を調べた。紫外光電子分光装置を新たに立ち上げ、アルカリ原子の被覆率と可視域共鳴吸収殿相関を調べた結果、金属表面上の2原子層のアルカリ層の間にグラフェンを挟んだ構造において、2.2 eV付近にピークを有する20 %程度の吸収帯が生じることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高真空下での金属表面上に吸着した氷薄膜について、その膜厚を1分子層レベルで制御し、構造に関する知見を和周波発生振動分光により得ることができた。これは、超高真空下での固液界面を実現するために重要な基礎データとなる。特に、膜厚が10分子層以下の領域で、最表面およびサブサーフィスの構造乱れが顕著に表れることを見出し、これらの挙動が過渡加熱時の融解挙動にどのように相関するのか興味がもたれる。 加えて、和周波発生振動分光に用いる可視光の波長を紫外~可視域で可変にし、電子―振動二重共鳴信号を取得するためのシステム構築を目指した装置開発を行った。ブローバンドで発生した可視光を狭帯域化する場合、スループットが低く効率に問題があるため、前年度は、光の波長オーダーで可視域と赤外光の遅延時間を掃引して、時間領域の干渉信号を得ることで、広い可視光範囲のスペクトルを取得する手法を採用し、同軸励起の和周波発生光学系に組み込んだ。プリズムペアにより可視および赤外光を分離して、別々の位相変調板を挿入することにより、複数のビームの相対位相を高精度に制御する光学系を構築した。しかし、スループットの面および、入射ビームのポインティング安定性に起因する問題から、目的の干渉信号が得られず、今年度は方式を変更し、あらかじめ狭帯域化した波長可変可視・紫外光を用いたシステムの構築を目指す。 また、上述の和周波発生とは異なる界面敏感振動分光のアプローチとして、金属表面プラズモン共鳴による高感度検出の確立を目指して、イリジウム表面上のアルカリ原子のオーバーレイヤープラズモン共鳴の2次元物質挿入による巨大変調機構を調べた。真空紫外光電子分光装置を立ち上げ、アルカリ原子の被覆率と可視域巨大応答の相関を調べた結果、アルカリ原子2原子層の間にグラフェンが挿入された配置の時に巨大光学応答が生じることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、当初計画通り、以下の事項に焦点を当てて研究を推進する。 1)過渡加熱パルスによる超高真空下での氷薄膜融解の最適条件を調査する。Ti:sapphire再生増幅器の基本波あるいは、再生増幅器励起ダイオードレーザーの基本波を分離して、過渡加熱用の励起光とし、真空下の氷薄膜を加熱後のピコ秒スケールの遅延時間での時間分解振動スペクトルを初年度に構築したヘテロダイン検出和周波発生振動分光法を用いて取得する。特に、過渡加熱に伴う氷の融解過程の膜厚依存性に着目し、バルクの融解挙動に近づく膜厚を明らかにするとともに、金属界面が融解に与える影響も明らかにする。 2)前年度から試みている、可視域波長可変和周波発生振動分光システムの構築を進める。前年度試みた時間領域での掃引測定法に代わり、非同軸配置を用いた波長変化型の和周波発生システムを構築する。特に紫外域300 nm付近での狭帯域化したレーザー光を発生するパラメトリックシステムを構築し、特に水/金属界面の電荷移動遷移に共鳴した信号を取得することを目指す。 3)周期ドープ型の非線形結晶を用いて、3ミクロン帯の赤外光を現状よりもブロードバンドに発生させるパラメトリック増幅器を構築し、現有の中赤外発生装置の出力光を合わせることで、表面での赤外過渡ホールバーニング測定を可能にする測定システムを構築する。これを用いて、過渡加熱途中の氷薄膜の水素結合ダイナミクスを時間分解で計測し、過渡融解過程についての水素結合ダイナミクスに関する微視的な情報を得る。
|