研究実績の概要 |
本年度は以下の成果を得た. 1)前年度までに構築した,バランス検出型ヘテロダイン検出和周波発生振動分光システムの超高真空下表面への適用をさらに推進し,新たに白金単結晶微斜面表面での吸着水分子の振動スペクトルおよび分子配向情報を取得することに成功した.微斜面におけるステップサイトは種々の電極反応や触媒反応における活性点となることが予測されており,そこでの水分子の吸着構造はひろく興味の対象となってきたが,プロトンの配向も含めた吸着構造について,実験的に明らかにした例はなかった.本研究では,Pt(533)面において,水の吸着量を精密制御した下での計測により,始めてステップサイトに吸着した水分子のOH伸縮振動領域における2次の非線形感受率スペクトルを取得し,その符号情報から,ステップでの吸着水分子の配向情報を得た. 2)超高真空下の金属単結晶上に作製したグラフェン薄膜の上に成長した,3,4,9,10-perylenetetracarboxylic-diimide (PTCDI)分子の薄膜について,その励起子吸収端に共鳴した極短パルスレーザー光を用いて,2次元電子分光計測を行った.その結果,励起後1 psまでの時間領域でスペクトル拡散が観測され,その速度が100 K~400 Kの温度範囲で著しく温度に依存するという結果が得られた.これは,従来広く仮定されてきた励起子と熱浴の線形結合モデルでは説明できない挙動であることから,熱浴との結合に非調和効果を取り入れる必要があることを提案した. 3)超高真空下のイリジウム単結晶上にグラフェン,アルカリ原子の複合膜を形成することで,可視域に巨大吸収帯が出現することを見出した.理論解析により,この巨大吸収帯が,表面最外層のアルカリ原子に電子状態が局在化することにより先鋭化した多極子プラズモンに起因することを見出した.
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