研究課題/領域番号 |
18H01943
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568)
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研究分担者 |
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
鎌田 賢司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (90356816)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エキシトン / 一重項分裂 / 非線形光学 / 開殻性 / ダイナミクス / 三重項–三重項消滅 / 分子集合系 |
研究実績の概要 |
本年度は、一重項分裂を示すペンタセンについてその一重項および三重項基底状態の第二超分極率γの量子化学計算を行い、三重項状態が一重項状態に比べて大きなγを与えることが判明した。この結果は、以前のモデル系の結果から得られた設計指針に従っており、一重項分裂と非線形光学物性の両面から興味深い。一重項分裂ダイナミクスを検討するための、各透熱電子状態のエネルギー、電子カップリングおよび振電相互作用の計算法について、様々な密度汎関数を用いた方法を考慮し、実験値や高精度量子化学計算の結果との比較から、信頼できる方法を選定した。一次元N量体の量子マスター方程式法によるエキシトンダイナミクスの定式化とプログラムを作成し、ペンタセンからなる一次元系の一重項分裂シミュレーションを20量体まで行った。電子カップリングや振電相互作用だけでなく、エキシトンカップリングの効果がサイズとともに増大することがわかり、一重項分裂速度やTT収率がサイズに大きく依存することを初めて見出した。合成実験サイドでは、一次元集合体の構築を目的とした分子を設計し、2,5,5-tris(trifluoromethyl)phenalenyl radical (CF3-PLY)を10段階で合成に成功した。得られたCF3-PLYを塩化メチレン溶液から再結晶を行ったところ茶色針状結晶が得られた。X線構造解析を行ったところ、中性ラジカル種が等間隔に積層した一次元鎖であることがわかった。光学物性測定実験サイドでは、理論予測された集合系におけるNLO物性の増強を実験的に検証すべく、数十マイクロメートル程度のサイズの分子結晶単結晶の光強度透過率測定の光学系の改良および検出特性の改良を行い、久保らによって合成された開殻分子の単結晶を用いて、分子スタッキング方向に対して平行な偏光にのみ顕著な二光子吸収が発現していることを実測により見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理論においては、1)実在系において弱開殻系の高スピン状態でのγの増大をはじめて高精度量子化学計算により明らかにでき、2)N量体の量子マスター方程式のダイナミクス手法および相対緩和因子解析法の開発に成功し、これまで未発見の一重項分裂のサイズ依存性を理論的に予測およびその起源の解明に成功したため。これは今後の新しい一重項ー三重項エキシトン移動及び変換材料の設計に大きく役立つと期待される。実験サイドも、開殻集合系の結晶作成に成功し、その非線形光学物性の測定の結果が出始め、理論予測の妥当性が証明されつつあるため。
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今後の研究の推進方策 |
一重項分裂ダイナミクスの基盤となる、各種の電子励起状態の計算手法や電子カップリングの見積、振電相互作用の計算については数多くのモデルや近似法が存在する。これらの値はダイナミクスの結果に大きく影響を与えるため、これら複数の方法により結果を比較検討し、系のサイズや結果の信頼性の観点から最適な方法を選択する必要がある。まずこの検討を行う。ま扱う集合系についても構造依存性たモノマー種類による効果を検討するため、多種類のモノマーからなる様々な幾何構造やサイズを扱えるようにプログラムを拡張する。実験サイドでは、本年度に合成された系のより精密なNLO物性測定に加え、さらに新しい開殻分子系や集合系の合成とその光物性や非線形光学物性の測定を行う予定である。これらの実験結果と理論予測を互いにフィードバックしながら新奇の物質設計概念やSF、NLO、エキシトン移動の制御法の確立を目指す。
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