研究課題/領域番号 |
18H01946
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
岩倉 いずみ 神奈川大学, 工学部, 准教授 (40517083)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フェムト秒パルスレーザー光 / 極限的超短パルスレーザー光 / 遷移状態分光 |
研究実績の概要 |
(1) コヒーレント分子振動励起による分子間熱反応の誘起手法開発 まず、コヒーレント分子振動励起による分子間熱反応の誘起を試みた。既存のTi:サファイア再生増幅器(Spectra Physics, Spitfire)を光源とし非直線光パラメトリック増幅器により発生させた、可視-極限的超短パルスレーザー光(525~725 nm)を用いた。このパルスレーザー光は5255波数のエネルギー幅を有しており、非平行振動温度換算すれば7500 Kの温度を与えているのと同等である。紫外部にのみ吸収を有する有機化合物に可視-極限的超短パルスレーザー光を照射すると、電子基底状態において誘導ラマン過程を通して複数のラマン活性な分子振動を同時にかつコヒーレントに励起することが可能であり、疑似熱反応を誘起できる。可視領域に吸収がない様々な純液体もしくは高濃度溶液を試料として用いて分子間熱反応の誘起を試みたところ、アルコールの脱水縮合反応を誘起できることが示された。
(2)分子間熱付加反応の遷移状態分光 ポンプ・プローブ測定により脱水縮合反応の遷移状態分光を試みた。分子振動周期よりも閃光時間の短い可視-極限的超短パルスレーザー光をポンプ光として照射すると、パルスレーザー光の光電場と分極した化学結合とが相互作用することで、振動周期よりも短時間に化学結合が電場の向きに引っ張られるなどの効果により分子振動位相がそろう。その結果、分子振動位相がそろった状態で電子基底状態において反応が進行するため、反応のコヒーレンスが新たに生じ、これらの分子が同時に反応するコヒーレント反応が誘起される。誘起されたコヒーレンスが持続している時間内において、可視-極限的超短パルスレーザー光をプローブ光として照射すると、分子振動の変化を実時間で計測できる(遷移状態分光)。ところが、シグナル強度が低く、反応機構解析には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) コヒーレント分子振動励起による分子間熱反応の誘起手法開発 当初の計画通りに、コヒーレント分子振動励起反応として分子間熱反応を誘起できることを確認した。その過程で、加熱しても熱反応が進行しない有機化合物に可視-極限的超短パルスレーザー光を照射すると、コヒーレント分子振動励起により気化反応が進行することを見いだした。さらに、上述したコヒーレント分子振動励起反応は全ラマン活性な分子振動モードを励起することで誘起する擬似熱反応であるが、照射する極限的超短パルスレーザー光のスペクトルを整形すると選択的に任意の分子振動モードのみをコヒーレントに励起できる可能性が示唆された。このように、分子間熱反応の誘起手法開発するうえで、分子間熱反応誘起を確認するだけでなく、コヒーレント分子振動励起の新たな研究領域への応用の可能性を見出した。
(2)分子間熱付加反応の遷移状態分光 コヒーレント分子振動励起により分子間熱反応の誘起が確認された純液体のアルコールを用いて、脱水縮合反応の遷移状態分光を試みた。しかし、シグナル強度が低く反応機構解析には至っていない。種々の解析から遷移状態分光の実現にむけて、パルスレーザー光の安定性を向上させノイズを軽減させる必要があることがわかった。そのため、2019年度は新たにパルスレーザー光の安定化を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
遷移状態分光の実現にむけて、パルスレーザー光の安定性を向上させノイズの軽減を目指す。具体的には、自動電動ステージに光減光フィルターや波長板をのせて制御用のアクチュエータとし、非直線光パラメトリック増幅器の種光と励起光のスペクトルや強度をモニターしフィードバックすることで、可視-極限的超短パルスレーザー光を安定化させる。ノイズを軽減することで、S/N比を向上させ遷移状態分光を実現する。 一方、NMRなどを利用して反応を検討することで、パルスレーザー光の安定化と並行して、コヒーレント分子振動励起反応の駆動過程の詳細を解析する。
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